第2回 「起業ミッションの重要性」
 ベンチャー企業にとって、そのミッション、理念とは一体何を意味するのであろうか。投資家の出資を得るため?、販売等の取引相手や顧客の理解を得るため?、あるいはスタッフの獲得のため?色々な役割があろう。 米国流のベンチャーの作り方のレクチャーでは、ビジネスモデル、経営チームと並んで、ミッション・ステートメントの重要さを教えられる。それは、どうもベンチャー企業自身の行動理念あるいはアイデンティティーであるということのようだ。

 それでは、日本のベンチャーに関してはどの様に捕らえると良いのであろうか。そういえば、ある起業家が、「ベンチャー企業が苦境に置かれ重大な判断を迫られた際、一番重要なことは、目先の利益確保のためどう行動したらよいかという観点よりも、起業の時に明らかにしたミッションは何であり、それに立ち返ってどうすれば良いか判断することである」という話を聞いたことがある。

 実は、この裏付けとなる様な日本の大学発ベンチャーについてのデータがある。それは、昨年、経済産業省が大学発ベンチャーに対して行ったアンケートの中で、創業目的について質問した回答の結果である。

 当該質問に対する選択肢としては、@研究成果が世の中で売れる商品であると感じたため、A社会に貢献するため、B今までよりも高い収入を得るため、C共同研究を行う上で受け皿が必要だったため等が挙げられている。その結果、大学発ベンチャー全体で見ると、@が約42%、Aが約39%と拮抗している。Cという回答をした企業については、ややさびしい限りではあるが、ここでの議論の対象とはしないことにしよう。

 さて、この結果をIPOを予定しているベンチャー企業に限って見ると、それぞれ約52%、約39%となる。なるほどIPOを視野に入れているベンチャーはしっかりマーケットのことを考えているとうなずける。しかし、IPOした企業についてみてみると、実はAの社会への貢献のためという割合が83%にも上るという結果となっている。

 つまり、大学発ベンチャーがうまく行く一つの要素として、単に良い技術だからビジネスとしてうまく行くに違いないという思いから起業するよりも、ベンチャーを通じ何らかの社会の役に立つことをやりたいという思いで設立されたほうがうまく行っているということのようである。

 勿論、直接的な因果関係ありと言う訳でもないだろうし、うまくいった後で回答が変わっただけということでもないと思うが、今一度ミッションの再確認をしておくことの意味はあるのではないだろうか。自分も、「君は一体何をやりたいと考えてんだ?」と上司からの詰めに対して、これからは「社会への貢献です」とでも答えることにしよう。