千秋楽 「関西で宗教に触れるって面白い!」の巻

 関西在住2年余の間に、多くの寺社仏閣を訪れることができました。東大寺や興福寺の境内などは、何度訪れたか数え切れないくらいですが、関西在住以前に最も多く訪れていたお寺と言うと、高野山の金剛峯寺です。母方の祖母がとても信仰心が篤く、幼少の頃から、毎朝、お経を上げている祖母の姿を見ながら育ちましたが、祖母の希望で、私が確か中学2年の年から3年続けて、8月13日に高野山で行われる万燈供養会に家族で行きました。3年続けて行ったこともあり、ローソクの灯されている高野山奥の院の石段を、祖母の手を引きながら上がったときの情景は、今でもくっきりと思い出せます。昨夏、約30年ぶりに高野山を再訪し、懐かしさいっぱいでありました。私自身はお経を読んだことは無く、宗教をきっちりと勉強したことはないのですが、祖母のおかげで、それなりの信仰心を持った人間になれたかなと思っています。信仰心が少しでもあれば、聖徳太子の仏教招来以来の蓄積を有する関西は、人生における様々な出会いや道標を与えてくれるところだと感じています。本日は、関西に住む機会を頂いた御縁で得ることができたそのようなお話をいくつか御紹介したいと思います。

 関西に龍谷大学という大学があります。滋賀県大津市瀬田(近江八景の一つの瀬田の唐橋で有名)に理工学部があり、私の仕事上では、専ら瀬田キャンパスの方々との関係が同大学とのつながりで、龍谷大学と言えば瀬田関連のことしか知りませんでした。ところが先般、大柳満之(”まんし”とお読みします)龍谷大学学長補佐兼RECセンター長及び堤次男同センター次長から、西本願寺の僧侶の研鑽の場として始まった同大学の歴史を、京都駅近くに堂々とそびえる西本願寺に隣接する大宮キャンパスを御案内頂きつつ伺って感銘を受けました。ちなみに、RECとは、Ryukoku Extension Center の略で、産学連携や生涯学習など、龍谷大学の社会貢献に関する連携活動を統括するセンターなのですが、現在のところ、大柳センター長を中心にRECの新しい連携スタイルを模索されているところです。なかでも、本日、御紹介したいのは、同大学ならではの宗教を通じた活動です。

 大柳氏は、セラミックスを御専門とされる理工学部教授ですが、一方、御実家は滋賀県にあるお寺で、御自身、読経をされることもあるそうです。彼は、”多様な価値を認め、寛容的な日本の宗教は、世界に対して、もっと発信すべきであるのに、現在は発信が無さ過ぎる。”という問題意識を持っておられ、理工学部という専門領域を飛び越えて、龍谷大学という宗教系大学の特色を生かして、米国に拠点を作って米国の大学の神学部や宗教関係者と対話を積み重ねて行くというプロジェクトを学長補佐として進めようとされています。このような活動は、21世紀の世界を良くしていくために日本が行いうる重要な取組みの一つではないかと私は考えます。私が知らないだけで、他の日本の宗教系大学でも取り組まれているところがあるのかもしれませんが、中国をはじめとするアジア諸国との間でも、宗教を通じた絆がより太くなっていけば、確実により良い世界になっていくと思われるところ、是非、龍谷大学同様の取組みが広く深く行われていくことを期待しています。

 冒頭に、高野山の万燈供養会のことを書きましたが、関西に来てから2年続けて行った東大寺の万燈供養会も印象深いものでした。8月15日の夜に、大仏殿の周りが、沢山の紙灯籠で照らされ、いつもは閉まっている大仏殿の上部の窓が開けられ、そこから大仏様のお顔が拝めるのです。大仏殿境内の後方から見ていると、紙灯籠の周囲を歩いている人々の黒い影が彼岸の人々のように思えてきて、その彼岸の人々を大仏様が見守っておられるように感じられてきます。まさにお盆に相応しい情景です。

 高野山・空海と来れば、対句のように出てくるのが、比叡山・最澄。高野山への3年連続出場とは対照的に、3年前まで一度も御縁がありませんでしたが、ここのところ、御縁が深まっております。京都側からも滋賀側からも上がりましたが、私は、滋賀側から上がる方が好きです。滋賀側の門前町の坂本の風情が良いのです。実は、私の好きな言葉の一つに、”一隅を照らす”というものがあります。いつ、どのような機会で知ったのか忘れましたが、この言葉、天台宗から来ているということを、比叡山延暦寺に参拝して初めて知りました。経典を読んだわけではないので、正確な意味は取り違えているかも知れませんが、”自分の身の回りをできるだけ照らそう。そして、少しでも広く強く照らせるようになるために、自分自身を良くしていこう。”という思いをこれからも抱き続けていきたいと思っています。

 お寺に行くと、僧侶の方々のお話を聞く機会に恵まれることもあり、第1回のコラムでは、福井県小浜市の神宮寺の御住職のお話を御紹介しました。奈良の薬師寺は、かつて管長を務められた方が、大がかりな寄付に頼らずに一般市民の写経料でもって、伽藍再建を進めて行かれたことで有名ですが、この方はお話も大変お上手だったそうです。その伝統を受け継いでか、薬師寺の僧侶の方々のお話は、面白く、また、ためになります。一番心に残っているのは、こういうお話。「人間、素直な心で手を合わせるときは、両方の掌同士を合わせます。そうすると、両手の指の皺の部分が合わさります。一方、心がねじ曲がっていると、手を合わせる際に両手の甲同士を合わせたりしてしまいます。そうすると、両手の指の節の部分が合わさります。皺と皺が合わさると、しあわせになれ、節と節とが合わさると、ふしあわせになってしまいます。皆さん、素直な心でいましょう。」本当に、関西で宗教に触れるって面白い!

 さて、4月から連載してきました「もっと関西!」、本日が第15回ですが、15日目を千秋楽とする国技に倣い、今回をもって千秋楽と致したいと思います。御愛読頂き、有難うございました。なお、近々、フジサンケイビジネスアイのアイズ・アイ(i's eye)というコーナーに、関西へのエールを込めた寄稿を致しますので、御覧頂けると幸いです。

 最後に、関西のお寺で出会った好きな言葉を。”手を合わせ 心を合わせ 幸せに”。合掌。