第6回 「福井の産学官連携って面白い!」の巻

 映画「ローマの休日」のラストの記者会見のシーンで、歴訪した国々の中でどの国が最も印象深かったかという趣旨の記者の質問に対し、アン王女がどの国も皆、素晴らしかったと答えかけて、少しの間の後、「Rome. By all means Rome. I will cherish my visit here in memory as long as I live.」と答えます。この映画、確実に10回は見ていると思いますが、毎回、このセンテンスを聞くと、じーんと感激してしまいます。驚いた記者が、病床に臥せっておられたにも関わらずですかと追加質問すると、それにも関わらずですと答えます。ところで、本日は、福井の産学官連携についてです。冒頭で書きましたことは、本文の内容には関係ありません。

 毎年10月に、福井県が主導する形で、北陸技術交流テクノフェアという催しが開かれます。私が関西に赴任して最初に福井県に出張したのが、一昨年のこのフェアの時です。 実は、入省以来、不思議と福井県に縁のあるポストに就いたことがなく、この出張が入省後初めての福井出張でした。プライベートでも高校生時代に家族旅行で東尋坊・永平寺を訪れて芦原温泉に宿泊するという初心者コースを一度辿ったことがあるのみでした。福井県人についても、かつて、県から当省に出向してきた大変優秀な方を一人だけ良く知っている他は、ほとんど存じ上げていませんでした。

   「こういう状況の私ですが、今回の関西赴任で福井県とも御縁ができたので、良く勉強させて下さい。」とテクノフェアの日の夜に、福井県の方々を前に御挨拶したところ、ある方から以下のように言われました。「山城部長、是非、福井のことを良く知って下さい。そのためには、福井県への出張の際には、泊まりがけで来るようにして下さい。福井での催しに出席するだけでなく、福井の企業にもできるだけ出向いて頂き、夜は、福井の美味しいお酒を味わいつつ、我々福井県人と語り合うようにして下さい。福井には、美味しい食べ物が数多くありますが、出張回数が積み上がるにしたがって、それらの食べ物を順に御紹介していきます。日帰り出張は、その回数にカウントしません。」とても説得力のあるこのお言葉を忠実に受け止め、以来、合計で6回福井に出張した際、やむを得ず日帰りで大阪に戻らざるを得なかった2回を除き、泊まりがけで参りました。以下、その中で出会った福井の産学官の皆様のことを綴っていきます。

 まず福井県ですが、ここの良い点は、県庁本体と県工業技術センターの連携が良く取れていることだと思います。大きな理由の一つに、相互の人事交流があると思います。この人事交流は、どの府県でも行われているのかもしれませんが、福井県の場合には、この人事交流を通じて培われた人的ネットワークが、県の産業振興政策、技術開発政策に有効に生かされているように見受けられます。県がまとめられた産業振興、技術開発関連の基本指針では、県として産業クラスター形成を目指す4分野とそれを実現するために開発を進めていく5つの技術分野とがきっちりと整理されており、県の重点が良く分かります。

    また、福井には、数々の優れた企業があります。私が伺わせて頂いた企業群からいくつか取り上げますと、前回のコラムの最後に御登場頂いた日華化学、ITを駆使したデジタル染色システムで名高いセーレン、優れたナノめっき接合技術を持つ清川メッキ工業、高品質5軸マシニングセンタの松浦機械製作所、道路のカーブミラーの国内シェア7割を誇るナック・ケイ・エス。ちなみに、あとの3社は、当省が3月に作成した”元気なモノ作り中小企業300社”に掲載されていますので、御覧になって下さい。他にも、福井の地場産業である繊維や眼鏡から派生して、新たな事業分野を切り開かれている企業群に伺うことができましたが、特に、眼鏡メーカーだった秀峰という企業が、曲面・球面への印刷技術を追究された結果、自動車産業に必要とされるようになっている姿は、竣工直前だった新社屋・新工場を、部外者としては多分初めて御案内頂いた際の村岡貢治社長の輝く笑顔と重なり合って、とても印象に残りました。

 福井大学は、平成4年開設の地域共同研究センターが産学連携の窓口として良く機能しています。かねてより、教員一人当たりの産学共同研究数は、全国でも上位にあったようですが、高島正之センター長の牽引力もあって、この2年間で産学共同研究数は倍増しています。前センター長の堀教授は学長補佐も務める傍ら、自ら福井大学発ベンチャー第1号を設立されました。御覧になった方も多いかと思いますが、3月にNHKのクローズアップ現代で国立大学の独立行政法人下後の取組みが取り上げられた際、首都圏代表の東京大学、東京工業大学の2校に対し、地方大学の成功例として登場したのが福井大学で、堀教授がクローズアップされていました。

 こういう産学官それぞれの方々が、良くまとまった形で、福井県の産学官連携は進められていると思います。もちろん、当局管内の2府5県は、経済規模や産学官それぞれのプレーヤーの数も異なりますので、どの府県でも福井県の産学官連携のような形で進められるわけではありませんが、そのまとまりの良さは参考になります。本当に、福井の産学官連携って面白い!

 ここまでが今回の本文で、これからは追伸のようなもの、というか空想の世界です。 映画「福井の平日」のラストシーンで、関西からの離任に際しての記者会見に臨んだ私が、記者の方から「関西の産学官連携で最も印象深かったのはどの府県のものですか?」と聞かれ、「どの府県の産学官連携も素晴らしく」と答えかけて、少し間を置いてから、「福井県です。福井県に伺い、産学官連携関係者とお会いした日々のことを、生涯大切に思い続けるでしょう。」驚いた記者の方の「福井県は近畿経済産業局のある大阪から最も遠くに位置しているにも関わらずですか?」との追加質問に対し、「それにも関わらずです。」The End.