第4回 「京都企業って面白い!」の巻
 前回、コラム名「もっと関西!」について書きましたが、出口編集長から最初に提案があったタイトルは「山城日記」だったのです。なるほど、山城だと自分の名前のみならず、京都のことも含意するし、大昔、土佐日記という有名なものも著されているしと心が動きまして、初回コラムの書き出しは、”昔、紀貫之がすなる日記というものを、最近は、ブログなどとも称して流行っているようであるが、我もしてみんとてするなり。”といった感じかなとまで考えました。本日は、古の山城国、京都の企業についてです。

 関西に赴任してきて暫くしてから、ある面白い現象に気がつきました。それは、新聞記事や様々な方達のお話の中に、”京都企業”という言葉が良く出てくることであり、一方、私の知る限り、”大阪企業”という言葉はあまり見聞きしないということでした。”京都企業”という言葉でイメージされる企業群は、島津製作所、京セラ、堀場製作所、ローム、オムロン、日本電産、村田製作所、村田機械、大日本スクリーン製造といったところであり、それらの企業を製品の観点から見ると、家電とか自動車等の最終製品として消費者の手元に届くものを製造しているのではないが、それらの最終製品の製造になくてはならない部品とか検査・分析機器とか製造装置等を製造している企業ということのようでした。私は、この現象を大変興味深く思い、これらの企業にお伺いして、経営トップあるいは経営幹部の方々とお話しする際、この”京都企業”に共通な要素とはどのような事かを質問させて頂きました。

 その結果、以下の三点を、ある程度共通した要素であるとして、各社の皆様が仰っていたと思います。
 一点目は、京都は、市場として見た場合、企業が発展していくためには小さすぎ、したがって、京都企業は、創業当初から、日本全体、さらには世界を市場としてやって行くことができるような高付加価値の製品作りを意図していたこと。
 二点目は、京都には、京都大学をはじめとする優れた大学、研究機関が集積していて、製品作りの過程で大いに頼りになったこと。
 三点目は、京都の地に脈々と流れているベンチャースピリット。

最後のベンチャースピリットに関して興味深いことは、京都市が平成9年から設けているベンチャー企業目利き委員会に、上記の京都企業の経営者の皆様が委員として参画され、次に続く京都企業の育成に関わっておられることです。また、この目利き委員のお一人である、半導体製造装置メーカーのサムコの辻理(つじ おさむ)社長に伺った話ですが、京都銀行、京都信用金庫、京都中央信用金庫といった京都の地場金融機関もベンチャー企業に対する支援マインドがあるとのことでした。辻社長は、「起業に成功するという人生が王道だと言われるように日本の構造を変えていくことが必要。」と仰っていましたが、そういう変化を促す根っこに京都がなっていくかもと思わせるフォーラムにお招き頂いたので、その御報告を。

 4月14日に行われた”ベンチャーフォーラムin京都大学”というのがそれであり、京大の産学官連携の牽引役の松重和美副学長が長をされている京大国際イノベーション機構が主催なのですが、松重先生に伺ったところ、むしろ共催のLLPザックという京大の学生が組織したLLPが中心になって開催に漕ぎ着けた由で、それに、立命館とか同志社といった大学の学生の組織も協力していたようです。当日は、これら三大学の他、関西一円、さらには中部地方の大学からも学生が参加していたようです。

 開会の挨拶をされた尾池和夫京大総長は、上述したような京都企業群の名前を挙げられつつ、学生の皆さんのベンチャースピリットを喚起されていました。私は、かつて、当省の管理職研修で教えられたことを応用しつつ、起業してやるべき事、やりたい事、やれる事の3つができるだけ大きく重なった方が、企業家として、更には人生としてもより良いと思うところ、最初の2つは自分で良く考え、3つめの点で自分の能力の不足をどう補っていったら良いかは、これから話をされる起業して成功された経営者の方々の言葉を参考にしつつ取り組んで行って下さい等申し上げ、最後に、この大学発ベンチャー支援サイトのPRをいたしましたよ、編集長。

 このフォーラムには、日本ベンチャー協議会が協賛されていて、その会長である平野岳史(株)フルキャスト社長が”人には輝く場があり、その輝きは人を幸せにする。”と題して基調講演をされました。雌伏の時期を経て起業し、東証一部企業を作り上げて来られた自らの体験をベースとした、大変魅力的な講演でした。学生の皆さんに、周りの人々に信頼され、周りの人々を惹きつけることができるような人間力の涵養を、強く説いておられたのが印象に残りました。人間、御縁ができると応援したくなるもので、昨年は、悲惨だなあと第三者的に見ていた楽天イーグルスですが、最近はフルキャストスタジアム宮城での奮戦を応援しています。

 基調講演の後のパネルディスカッションに登場された企業経営者は、白石徳生(株)ベネフィット・ワン社長、山崎伸治(株)シニアコミュニケーション会長、内藤裕紀(株)ドリコム社長でした。皆様のお話を伺っていて、事業内容に加え、事業家としての理想や一人間としての人生観に感銘を受けました。ちなみに、山崎氏と内藤氏は京大出身で、特に内藤氏は昨年まで京大生だったそうで、会場にいた学生の多くは、年のほとんど違わない彼に触発されたのではないかなと思いました。

 今回のコラムの締めは、DNDメルマガでも良く登場され、昨年のベストスピーカーオブザイヤーにも選ばれている堀場雅夫(株)堀場製作所最高顧問にお願いします。お話を伺う度に大いに啓発される方ですが、最初にお会いしたときに教えて頂いた話が、京都企業のことを考える度にいつも思い出されます。「山城部長ね、京都の人間は、東京都のことを”とうきょうと”とは言わないんですよ。」「それでは、何と言うんですか?」「ひがし京都って言うんですよ。」感服。本当に、京都企業って面白い!