第3回 「MOTって面白い!」の巻
 このコラム連載の話を出口編集長からお受けする時、関西の情報をもっと発信するという趣旨をシンプルに表現しようと言うことで、コラム名を「もっと関西!」にしたのですが、”もっと”というのは、当省が日本での普及を進めている”MOT”の掛言葉にもなっているのでと付け加えました。編集長からは、その掛言葉はなかなか分かってもらえないでしょうというお返事でしたが、コラムのタイトルバックに”Management of Technology”と入れるという御配慮を頂き、MOTの事をなるだけ早く書くと編集長に宣誓しました。4月12日の配信で、MOTを専門とされている古川教授がMOTについて連載を開始されたことを知り、正直、宣誓を後悔しましたが、清水の舞台から飛び降りるつもりで(ちなみに、ラストサムライの撮影場所になった姫路市にある圓教寺の舞台もなかなかのものです。)今回はMOTについてです。

 関西では、神戸大学がMOT教育への取組みについての老舗と言えますが、当省がMOT普及のための事業を始めた平成14年度以降、多くの大学がMOTのディグリープログラムを開始し、また、大阪ガスの子会社のアイさぽーと等、社会人向けのノンディグリープログラムの提供を始めているところもあります。このアイさぽーとは、元々、大阪ガスが社内で行っていたMOT教育をベースにしたプログラムを広く社外の受講生にも提供しているもので、東京校も設置しています。また、社内教育ということで言えば、松下電器産業、シャープ、オムロン等、関西を代表する優れた企業もMOTに取り組んでいます。

 2月末日に、私ども近畿経済産業局では、このMOTを関西の中小企業に活用してもらいたいという思いで、上記のアイさぽーと社に事務局になって頂き、シンポジウム及びプレスクール(要するにお試しコース)を開催しました。プレスクールについては、  @専門分野特化型として、IT、ナノテク、ロボットテクノロジーの3分野それぞれに係  るMOTを1コマずつ(ちなみに、1コマは1時間) A一般的な中小企業向けMOTとして、3コマ B研究開発型ベンチャー向けMOTとして、3コマ の計9コマを用意しました。アンケートを取ったところ、シンポジウムについては8割以上が、またプレスクールについても7割以上の方が良い内容だったと評価されていたのでまずは成功かなと安心しました。

 私自身は、午後のプレスクール9コマは部下達に聴講・報告させることとし、午前中のシンポジウムを聞きました。冒頭の松島克守東大教授の「ベンチャー企業の成功モデル」という基調講演も面白く聞かせて頂きましたが、「もっと関西!」の趣旨に鑑み、次の講演者の関西学院大学助教授の講演に焦点を移したいと思います。ちなみに、この関西学院大学は、関西では関西大学、同志社大学、立命館大学と一緒に関関同立と呼称される有名私大ですが、関西大学の関西が”かんさい”と読むのに対し、関西学院大学の関西は”かんせい”と読みますので、御存じの方も多いと思いつつ蛇足ながら。

 さて、その関西学院大学助教授は、玉田俊平太氏。姓の方はさておき、名前が”しゅんぺいた”なのです。実は彼、元々は当省の職員であり、私は、資源エネルギー庁のある部で彼と一緒になったことがあります。当時私は若手の課長補佐で、彼は入省後日の浅い係員でした。彼がおずおずと、こういう考え方では如何でしょうかなどと、案件を上げてくるのに対し、もっと名前に相応しい、創造的、革新的なアイデアを持って来いよなどと、発破を掛けていたのですが、今回のシンポジウムでは、壇上から指名されたりして汗をかきました。

 彼の話は、ハーバード大学のクリステンセン教授が提唱された「破壊的イノベーション」という概念を軸にしたものでした。私の理解したところ、破壊的イノベーションとは、ある企業にとり、その主要顧客から見たら性能が低下するような商品を供給する新規ビジネスのことで、したがって、既存の大企業の合理的経営判断からは、対象外とされるような新規ビジネスのことです。彼によれば、「破壊的イノベーションは単純で低価格、低利益率で、最初は新しい小規模な市場をターゲットにして始めるものであり、大企業の主要顧客は通常そうした破壊的イノベーションを求めていないので、結果、当該大企業が破壊的イノベーションに投資をする頃には、手遅れになっている場合がほとんど」とのこと。逆に言えば、ここに中小企業にとってのチャンスがあるということで、なかなか示唆に富む内容でした。例示も分かりやすかったですが、破壊的イノベーションにより敗れていく企業の名前を”山城産業”として説明していたのが、ちょっぴり残念でした。敗者の開き直り(?)であえて一言言うと、提唱者のクリステンセン教授は「disruptive innovation」と名付けておられるらしく、日本語としては、攪乱的イノベーションとでも表現した方がベターだと思いました。軽視していたビジネスがいつの間にか広く受け入れられるようになって、手を出していなかった大企業が慌ててしまうという図には、攪乱という言葉がぴったりする感じがします。ただ、”しゅんぺいた”助教授には、”破壊”という言葉が似合いますけど。

 部下からの報告によると、プレスクールでの山口栄一同志社大学教授の話も大変面白かったらしく、玉田助教授が説明した性能破壊型のイノベーションに加え、こちらは、パラダイム破壊型のイノベーションとして、真空管に対するトランジスタのように、既存技術の延長線上とは全く別の方法(パラダイム)でもって遂行されるイノベーションを説明され、パラダイム破壊という観点から、有名な青色発光ダイオードの裁判について考えさせるという内容だったようです。アンケート結果を見ていたら、”今日は山口先生の話を聞くために来た”という声も寄せられており、そうした期待に違わぬ講義だったようです。

 最後に、今までの文脈と直接関係ありませんが、PRを一件。当省では、6月3日に、”一日経営応援隊 in Kansai”というセミナーを行います。狙いは、関西の中小企業がITを活用して経営を革新していく動きを大きくしたいということ。中小企業の皆様が出席しやすいようにと思い、土曜日の開催にしましたので、是非、多くの中小企業の皆様に御参加頂ければと思います。詳しくは、こちらを御参照下さい。ところで、このセミナーの会場は、関西のものづくりの一大拠点の東大阪市にあるクリエイション・コア東大阪ですが、ここのモットーは、”ものづくりで大阪の未来をもっと元気に”という趣旨の「Monodukuri Osaka Tomorrow」の頭文字を取って「MOT!」なのです。本当に、MOTって面白い!