第11回 「磁場力って面白い!」の巻

 第5回産学官連携推進会議が終わって2週間が経ちました。塩沢審議官と3人のパネリスト&本サイトコラムニストの先生方が、迅速に同会議を終えての原稿を投稿されましたが、特に、同会議の際にお会いした森下先生が、あの後、欧州に仕事に行かれて、さらには何と日本対豪州戦を現地で御覧になった興奮醒めやらぬ間に、原稿を送って来られたことには驚きました。日頃は、”出口編集長から原稿の催促があるんじゃないかとびくびくしてるんですよ。”と仰っている森下先生ですが、ここぞという時の早業は、ゆったりとしたペースで試合を進めながら、ここぞという時には、ビデオを早回しで見ているのではないかと思うようなスピードでゴールを決めるブラジルのようであります。今回は、第5回産学官連携推進会議の感想を中心にしつつ、磁場力について考えてみたいと思います。

 私は、今回の会議、2年連続2回目の出場だった訳ですが、初出場の昨年は、初めて国立京都国際会館に足を踏み入れた機会であったことも相まって初出場の高揚感みたいなものは覚えたものの、何となくお祭りを見に来た観客のような気分であったところ、2回目の今回は、このコラムを通して事前の盛り上げに参画できたこともありまして、昨年よりは格段に高い参加意識を持って臨め、また大いに楽しめました。私の中では最大の課題と思っていた中小企業の方々の参加についても、中小企業庁の小川秀樹事業環境部長のイニシアティブで、今年度の中小企業施策の目玉である「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」の説明会が会場内で実施されたこともあって、これまで当局との接点があまり無かった方々を含め、昨年より中小企業の参加が増えたようです。来年は、今年よりも更に中小企業、特に京都に近い関西の中小企業の方々に参加して頂きたいと思いますが、その意味で、原山先生が先週書かれていた、中小企業の方々がメインプレーヤーとして登場されるセッションの御提案に賛成です。福井県の方から伺ったことですが、今年の会議でも、私がコラムにて御紹介した松浦機械製作所の松浦正則社長がパネリストとして登壇されるので参加された福井県の商工関係者が多数おられたそうです。

 今回の会議で、私が最も感銘を受けたのは、初日の会議の締めの際の黒川清日本学術会議会長の御発言です。特に、大学がもっともっと門戸を世界に開いて行かなければならないということを大相撲に例えつつ述べられた部分が印象的で、その部分を私なりに要約すると、「日本の大学は、内に閉じた状態であり、世界と勝負できる状況にない。そういう日本の大学には、一線級の留学生はやって来ず、たいていは米国の大学に行ってしまう。大相撲の世界は、小錦が横綱を窺う状況の時には、凄い反発があったものだが、今や、幕内力士全体に占める外国人力士のシェアは30%、三役以上だと50%に上がり、横綱については100%!そして、そういう外国人力士の出身国と日本との絆は深まってきている。大学は、大相撲を見習うべきである。」というものでした。

 確かに、もし、現在の大相撲の世界が日本人力士だけだとしたら、つまらないでしょうね。横綱朝青龍、次期横綱間違い無しの白鵬、大関琴欧州、これまた横綱になるのではないかと思われる把瑠都、軽量ながら常に真っ向勝負の安馬、何だかコンニャクみたいな相撲でするりするりと巧みに相手をかわして勝ってしまう旭鷲山等々が皆いなかったら、面白さ激減です。彼らがいるから大相撲は面白いし、そして彼らのおかげで、モンゴル、ブルガリア、エストニア、グルジアといったこれまで日本人のなじみが薄かった国のことを少しずつではあっても知るようになったし、一方、これらの国の国民も自国の出身の力士が活躍している大相撲を通じて、これまでなじみが薄かったであろう日本という国のことを知るようになってきているのだと思います。ある場があって、そこが日本の多くの人々を、更には世界の人々を惹きつけるような魅力を有する時、その場には磁場力があると呼ぶことにしますと、大相撲は、素晴らしい磁場力を持っていると言えると思います。

    関西で強い磁場力を有する場ってどんなところがあるでしょうか?日本人向けだけではありますが、磁場力の強さとしては、まずは、甲子園球場でしょうか。日本の8月の風景の中では、夏の高校野球は欠かせないと思っている日本人はとても多いと思います。圧倒的に日本人女性向けではありますが、強い磁場力を持っている場として宝塚歌劇場も挙げられるでしょう。世界の人々にも磁場力を有する場はどうでしょうか?真っ先に頭に浮かぶのは世界遺産。京都や奈良、二年前には和歌山の熊野古道も指定されました。姫路城も建物単体ではありますが、京都や奈良等とのセットで、文化遺産に対する”感応電荷”を持つ世界の人々を惹きつけていると思われます。

 このような、常にそこにある、例えて言うと永久磁石のようなものに加え、人々が集まってくることにより形成される、例えて言うと電磁石のような磁場もあります。冬のスイスで行われるダボス会議は世界的に有名ですが、産学官連携推進会議も、内部関係者を除いて、約4千人を惹きつける磁場力を既に持つ電磁石だと思います。今後も、より強い磁場力を持つ場にしていくことが大切ですし、同時に、参加者側での”感応電荷”のグレードアップも必要です。強い磁場があっても、そこに存在する電荷が弱ければ、弱い力しか発生しないのと同じように、参加者の”感応電荷”が弱ければ、具体的に物事を推し進めていくだけの力が発生しませんから。

 さて、今回の締めは、外国の方々に対する日本の磁場力を実感した経験を。かつて、日本駐在の各国大使、公使等約20人を四国の経済・産業の実態を見て頂くために引率したことがあります。香川県での日程を終え、愛媛県に移動するバスの中では、繰り返し、愛媛県のPRビデオが流れていました。その日の夜、愛媛県知事主催のレセプションが終わった後、欧州各国からの参加者たちに2次会に誘われて行きました。少しお酒が回った頃に、ある方が、「ミスター山城。明日はとても楽しみだ。PRビデオで何度も宣伝していた道後温泉に行くんだよね?」と聞くので、「行きます。企業見学の後、道後温泉商店街に行き、お土産も探しつつ散策して頂いて、それから商店街の一角で昼食を取った後、松山空港へ向かいます。」と答えたところ、「温泉にも入れるんだよね?」と彼。「時間的にそれは無理で、商店街を散策して頂くだけです。」と私。それからは、洗練された欧州の外交団と話をしていると言うよりは、駄々っ子を相手にしているようでありました。何とか宥めてその晩は収め、翌朝一番で愛媛県の方に話をしたら、迅速に調整して頂いて、結局、商店街を散策するグループと温泉に入浴するグループに分かれることとなりました。

 経緯もあるので、私が入浴グループを引率。皆さん、大喜びで入浴し、浴室内は大騒ぎでありましたが、予想していなかった反応をされたのは、入浴前に道後温泉本館内を見学した時。夏目漱石が「ぼっちゃん」を執筆していた部屋に案内され、案内の方の、「日本の有名な作家が小説を執筆していたところです。」という説明を、にこにこしながら聞いていた皆さんの前に、私が財布から千円札を取り出して「この人ですよ。」と言ったら、皆さん、とても真面目な表情になられまして、「そのような栄えある人物がいた場所に自分たちは今、来ているのか。」「素晴らしい。」と口々に仰る訳です。なるほど、確かに、彼らの国では、国王とか大統領とかが紙幣に描かれているからなあと気づきました。地球という最大の電磁石が生み出してくれた温泉というものと、日本の偉大な文学者とが相乗効果をもたらして、大きな磁場力を外交団の方々に与えることができたようで、最後の昼食会での外交団代表のスピーチでは、「今回の四国での経験はどれも皆素晴らしいものだったが、特に道後温泉は〜」以下、ローマの休日のアン王女のスピーチと同旨(コラム第6回御参照)。本当に、磁場力って面白い!