第1回 「関西って面白い!」の巻
 「いやー、山城さんですかー、お会いしたかったんですよ。昨年のベストスピーカー・オブ・ザ・イヤーの上位にランクされてますよ。」「何ですか、それ?」これが、出口さんとの初めての出会いでした。場所は、福井大学主催のフォーラム会場の講師控え室。このフォーラムについては、出口さんが2月に”哀愁の北陸路に雪が降る”と題して書かれていますが、それが御縁でメルマガを送って下さるようになり、また、2〜3回メールのやり取りをしていたら、「関西からの情報発信が不足しているので、山城さん、コラムを書きませんか?」というオファーをいただきまして、今日に至った次第です。

 私は現在、近畿経済産業局で、関西における産業クラスター計画推進、技術開発支援、産学官連携推進、知的財産政策推進、産業人材政策推進、情報化政策推進等を担当する部長を務めておりますので、そのような分野を中心にして私が面白い!と感じたことを、コラムで書いていこうと思っていますが、初回の今回は、より一般的に、関西の面白さを綴ってみたいと思います。

 関西に赴任してきて1年9ヶ月が経ったところですが、22年前に旧通産省に入省して以来、今ほど、頭をバランス良く使っている時はありません。平日は、上記のような仕事を担当している関係上、科学技術関係の話に関わっている時間が長いのです。関西の優れた製造業企業の方々から伺う事業の話や、大学の先生方から伺う優れた研究の話を少しでもより良く理解したいと思い、入省以来初めて、昔懐かしブルーバックスやオーム社の本を買って勉強したりもしています。要するに、理系的な部分を主として、左脳を働かせている平日と言えると思います。

 一方、休日は、関西にある優れた文化遺産の数々を訪ね歩いて来ました。京都・奈良の文化遺産が素晴らしいことは、日本人の常識になっていると思いますが、その他の府県にも素晴らしいものがたくさんあります。福井県では、”海のある奈良”と称される若狭地方にある小浜市の神宮寺の住職の方から、「有名な東大寺のお水取りの水は、この神宮寺のお水送りにより送られるもの。よって、東大寺側の水を汲み取る井戸を若狭井と言う。ちなみに、ここ小浜と奈良とを結ぶ直線上に京都が位置している。」といった御説明を伺った際、身震いするような感動を覚えました。兵庫県の小野市には、国宝の浄土堂の中に、快慶作の巨大な阿弥陀三尊像が安置されており、西日によって堂内が極楽浄土を思わせる金色に輝くように設計されていると伺うとまた感動。和歌山県の御坊市近郊にある道成寺は、歌舞伎等にも取り上げられていますが、僧侶の方が絵巻物を繰りながら話して下さる安珍・清姫話は面白いし、国宝の千手観音像も見事です。大阪府の河内長野市にある観心寺には、国宝の如意輪観音像がありますが、これは昔学んだ日本史の教科書に平安時代の彫刻の代表例として出ていたもので、是非一度拝観したいと長らく思っていたものです。4月17,18日の二日間しか拝観できませんが、昨年は幸い17日が日曜だったので、念願の御対面を果たすことができました。そして最後に、私が出会った最も好きな仏像を御紹介しますと、滋賀県の高月町という琵琶湖北東部にある町の向源寺に安置されている十一面観音像です。一言、ほれぼれとする仏像です。当省が発行している経済産業ジャーナル2月号に、福水健文近畿経済産業局長の寄稿があり、写真も掲載されているので、御覧になっていただければと思います。ちなみに、十一面観音像には、背面に暴悪大笑面という面があり、通常この面を拝むことはできないのですが、この向源寺の十一面観音像は、至近距離で像の周りを巡ることができるようになっているので、口をかっと開けて笑っている暴悪大笑面を拝むという貴重な経験もできます。こういう素晴らしい文化遺産を訪ね歩き、その土地の食べ物をいただき、時には、その土地の地酒を買って電車の中でいただきつつ、その土地にちなんだ文学作品を読むという休日を過ごしていますと、存分に右脳が働いているような思いがします。

 以上が、頭をバランス良く使っているということの意味なのですが、それより更に嬉しいことは、関西での生活により、日本の素晴らしさを十分に再認識できたということです。つまり、平日の仕事の中で、日本のものづくりの素晴らしさ、技術水準の高さにいつも触れ、情熱あふれる経営者、研究者や凄いとしか表現できない職人の方々とお話をすることができ、一方、休日には、日本の文化の素晴らしさを堪能し、それを培ってきたあるいは守ってきた先人たちの姿を想像したりしますと、日本は素晴らしい国であり、日本人であることは有難いことだなあということを実感を持って感じることができたということです。本当に、関西って面白い!