第9回「金、カネ、かね、の巻」


●皆さん。

 お盆も終わり、夏休みも終了し、やっと涼しくなりかけてきました。前回は、なんと桜の季節で時の移り変わりの速さを感じます。出口編集長に忘れられた?のではないかと喜んでいたのもつかのま、タイトルに「寒い、寒〜い、お話し」とついた嫌なメールが送られてきました。

 そう、ご想像通り、鬼の出口編集長からのお便りでした。借金取りに追いかけられる心境というのはこういう感じなんでしょうね。あるいは、逃げ回っている新地(東京でいう銀座ですね)のママからの請求書が届くという感じというべきでしょうか?(私が新地にいって、請求書をためているということではありませんので、誤解がないようにしてください!)

 実は、桜とすすきの間にアジサイの咲く季節に産学官連携サミットという特番を書いたのですが、編集長には関係ないようです。貸した?借金は、利息をつけて返すというのが、当たり前という感じでした。

 ということで、利息をつけて返すべく、今回は皆様期待の?お金の話です。といっても、どこの株を買えば儲かるか?という美味しい話でなく、ベンチャーのファイナンスのことです。

 余談ですが、がっかりされた方にお願いです。電話でかかってくる未公開株投資は100%詐欺ですから、引っかからないようにしてください。私も一度電話がありましたが、びっくりするくらい最近多いようです。未公開株の売買は、認可された業者以外違法ですし、そんなに儲かる話は世の中にはありませんよ。まあ、DNDのサイトを見られている方にそんな方はおられないと思いますが・・・

 ライブドア騒動、村上事件と続き、ベンチャー、株とくれば、お金儲けというステレオタイプのマスコミ報道、ということで、この一年ベンチャーの評判が悪くなった年だったかもしれません。しかし、ほとんどのベンチャーはむしろお金がなくて、いかにお金を集めるかというのが、CEOの仕事です。

 今回の主題は、アメリカにおけるVCの投資基準「Financing/Milestones」です。私のこのシリーズももう6回になりますが(出口さん!頑張っているでしょう。石黒さんの前では恥ずかしくて、こんなことはいえませんが・・・)、今頃お金かといわれそうですが、実は私が書いてきた順番はアメリカのVCの投資基準のリストの順に従って、書いてきています。すなわち、ベンチャーの創業には、お金は重要ですが、決して最初ではないということです。以前に書きましたように、まずは心意気ですよね(日本語に直すと、少しニュアンスがかわりますが、過去の記事をみてくださいね)。

 最近、バイオの投資もライブドア騒動の前に比べると冷え込んできていますので、以前より真剣にファイナンスを考えているCEOも増えているかもしれません。ひどい時は、お金はいくらでも集まると豪語されていた方もおられました。確かにCEOの最大の仕事は、お金集めですので、悪いことではありません。集めるだけ集めるのも、時と場合によっては間違いではないでしょう。

 私は、いつもそういう話を聞くと質問するのは、「で、その資金はいつまでの資金なんですか?薬になるまでの資金なんですか?」という内容です。たとえ、20億集めようと医薬品にするまでには足りません。そうすると、もう一回あるいは、2回お金を集めることが必要になるかもしれません。最初が高い株価で資金を集めていると、ここで力尽きるかもしれません。しかし、最初があまり高くなければ再度、株価を上げて少ない株数で資金を得ることができるかもしれません。

 どちらが正解かはわかりません。最初は、ブームで集まったので、そこで資金を集めておいてほうが良かった会社もあるかもしれません。しかし、一般的には会社は成長するはずなので、段階的に資金を集めたほうが少ない株で多くの資金を集められるはずです。

 実は、そこにアメリカではFinancing/Milestonesとなっている理由があります。マイルストーンは、節目節目での到達目標で、現在のファイナンスでどこまでの資金をまかなうか、どこまで行った時に次の資金をキャピタルが出すかという指標になります。CEOをはじめとするマネージメント・チームは初期には資金需要を抑え、マイルストーン達成後株価を上げて多くの資金を得ようとします。逆に、VC側はマイルストーンを達成しないと次の資金をださないですし、達成できないようなベンチャー、あるいは、CEOに不信任をたたきつけるということになります。これは、ある意味、VCと会社側の真剣勝負です。

 マイルストーンを設定することにより、無理な計画や無理な資金需要はかなり抑制が可能なはずです。無理な設定を早期にすると早々とレッドカードが出されることになりますので、現実と理想の落としどころを真剣に模索するとこになるでしょう。

 流行の下方修正は、このマイルストーン設定が甘いという点も理由として上げられます。勿論所詮計画ですから、融通無碍な変更も時によっては必要です。前が崖なのが見えているのに、計画通り突っ込んでいくようでは困ります。しかし、今の手持ちの資金でどこまで生活できるかを考える点では、有用だと思いませんか(書いていて、江戸時代の農民のような気分になってきました。お大尽のようなお金遣いをしたい!)。

 特に医薬品開発などバイオは10年、20年ものです。熟成を重ね、風雪に耐え、商品を開発していく。爪に火をともし、明日を待つ(今度はマッチ売りの少女のようですね)。

 一方で、巨額の資金を集めなくてはいけない。ばくちとしては、男の生きる道として花形かもしれません。業界トップの武田製薬の武田会長自らが、ラスベガスのギャンブルと称する世界ですから。スロットマシンか、バカラか、知りませんが、魔力に取り付かれた人たちが、患者さんの命を助けたいという崇高な使命で、戦うという男のロマンですね(女性の方、申し訳ありません。正確には男女のロマンというべきなんでしょうが、慣用句なので、お許しください。女性には、男性以上のばくち打ちがいらっしゃるのは、良く知っておりますので・・・)。

 前回のテーマで述べた人材(マネージメント・チーム)が如何に大事かも、このような状況の中で理解していただければと思います。大学の先生だけで、ばくちをするのは、これは困難です。やはり腕の良いディーラー?を是非捕まえてください。

 前回もそうですが、やたらバイオをばくちにたとえるので、私がギャンブル好きと思って誤解している方もおられるかもしれませんので、言い訳も書いておきます。残念ながら、競艇・競馬などはしませんので、お誘いはご遠慮いたします(もし、見かけても、たまたまラスベガスの学会が好きなだけですので、誤解?なきようにお願いします)。

 P.S. ゴルフの好きな方は、ツームストーンという競技をご存知だと思います。今回、お金の話をしていて、ふとこの競技と似ているなと思いました。最近はあまり行われることもないですし、実は私も話に聞いただけで参加したことはないのですが、バイオベンチャーと良く似ています。

 あるゴルフサイトからの引用ですが、

 「ツームストーン(墓石・墓碑)というゴルフのゲーム方式がある。ルールは、実に簡単明瞭である。あらかじめ自分たちのハンディキャップを、まず取り決めておく。かりに僕のハンディキャップが18だとしよう。すると、パー72のコースで1番ホールから出て、90ストローク打った時点で、僕のゲームは終わりになる。ハンディを含めた総打数で、どのホールまで進めるかを競うゲームなのだ。 自分が、自分の能力(ハンディキャップ)を使い果たした場所に、署名した石を置いて、トボトボとクラブハウスへ引き返すのである。人によって、13番ホールの第2打地点だったり、14番のグリーン上だったり、あちらこちらに墓碑のように名前を記した石が置かれるから、ツームストーンと名づけられたのだ。

 運よく、絶好調でハンディを使い果たさずにいると、そんな仲間のツームストーンがいっぱい並んでいく風景を見ながら18番ホールまで辿り着くことができる。それでもまだストロークが残っていれば、再び1番ホールに向かっていいのだ。

 いつ、誰がこんなゴルフの遊び方を考え出したのか、定かではない。けれども、ゴルファーにとって、18番ホールまで辿り着けないで石を置くというのは、かなりの挫折感や屈辱感であることは間違いない。精神的に、苛酷で遣る瀬ないゲームでもある。もちろん、僕が開くコンペでは、自分が最後まで生き残るつもりでいる。そして仲間たちのツームストーンが点在するフェアウエイを闊歩したいに決まっている。その光景を想像しただけで、ゴルファーは心が満ち足りるから単純で不思議なものだ。

 ゴルフが面白いのは、そのギャップであり、なかなか思うようにいかないからだ。簡単にねじ伏せることができない。それでいて、あと一歩という手ごたえをいつも感じる。奥行きが深く、幅広いゲームだ。」

 ということです。昔私の父がツームストーンに参加した時に聞いた話では、最後のホールは旗だらけで、大変綺麗なそうです。最後の一打で終了ですから、どんなにナイスショットをしてグリーンにのっても、そこで打数が尽きれば終わり!

 まさに、バイオベンチャー!認可直前、後一歩で資金が尽きて、という怖い状況を想像させませんか?ちなみに、18番最後のカップインまで後1cmで旗をさすのは、辛い辛い状況だそうです・・・。

 バイオベンチャーの関係者の方、こんな話を聞くと、何とか、最終ホールにカップイン、いや、薬にしたいと思いませんか?

大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授
知的財産戦略本部 本部員
アンジェスMG社取締役
森下竜一

 追伸:私どもの研究室とアンジェスMG社では産学協同研究を推進する研究者を募集しております。また、アンジェスは東京大学に先端臨床医学開発講座(寄付講座)を開設しております。こちらでは、遺伝子治療・再生医療やがんに対する新規治療法の開発を行います。東京・大阪のどちらでも大学院生や産学連携のポスドクを募集しております。ご興味のある方は、担当者の中神までご連絡ください(nakagami@cgt.med.osaka-u.ac.jp)。なお、私どもの研究室の詳細は、http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/で見ることができますので、ご覧ください。
また、バイオサイトキャピタル社も、キャピタリストを募集しております(http://www.bs-capital.co.jp/)。大阪・東京でも勤務できますので、世の中の役に立つベンチャーを育てたい、あるいは、ベンチャーを経営してみたい方は、是非ご応募ください。担当者に直接(info@bs-capital.co.jp)ご連絡ください。