第18回 イノベーション一丁目一番地


 イノベーション25の最終報告書がいよいよ出てきました。もう新聞でも報道されていますし、取りまとめの最高責任者である座長の黒川先生からは新聞のコメントに関するコメントまでDNDにアップされているのをご覧になったかもしれません。

 実は、出口さんからは出ると同時に原稿の催促があったのですが、私の怠慢、いえいえ多忙で?、遅くなってしまいました(原稿の催促がなかったもので、つい・・・)。でも、実はもう一つ理由があります。イノベーション25の報告書は大変な量で、どこから感想を書こうかと悩んだのも一因です。

 結局、悩んだあげく、イノベーション25の精神?について話をさせてもらおうと思います。以前のDNDでも書きましたが、最も重要なのは、イノベーションを持続的に生み出すためのシステム構築の議論だと思います。実際、イノベーション25の中でも「出る杭」を伸ばす人材育成という形でシステム構築を象徴的な言葉で示しています。

 今までの日本の科学技術は、会社や大学ごとのクローズドな閉じられた中での進歩でした。オープン・イノベーションを行うための社会システムの構築は、日本では未成熟です。どれだけ個性的な人材を育成できるかが、イノベーションを生み出す鍵になります。イノベーション25では、異という言葉で表していました。

 異という言葉は、日本では従来悪い意味で使われています。異端、異質という言葉には、"まつろわぬ人々"というイメージが近世以降あり、日本では嫌われ者の代名詞だったかもしれません(私は個人的には、隆 慶一郎さんの描く道々の者とか、まつろわぬ人々の時代物が大好きです)。イノベーション25では、異をこれからの日本に必要不可欠な存在であると認識し、「出る杭」を伸ばすと明言しております。

 その意味で、イノベーション25は日本人の考え方をも、変えるように迫っているといっていいでしょう。問題は、イノベーション25を評価、あるいは、批評する人たちに本当に異を受け入れる覚悟があるかです。これは、口でいう以上に大変なことだと思います。ますます進むグローバル化の中で、日本社会が生き延びれるかは、異を甘受できるかどうかにかかっていると思います。

 また、イノベーション25では、イノベーションを実現するためのツールの提供に関しても明言をしています。ベンチャーの社会的意義を認め、その発展・成長を促す点も評価したいと思います。

 実際、中間発表で出された「いのべ家」の一日で描かれた未来像は、IT技術やバイオ技術を活用したものであり、担い手としてのベンチャー育成の議論がなければ絵に描いた餅だといえます。

 しかし、イノベーション25にも、残念ながらまだ弱点があります。他のメディアも指摘していますが、これらの技術の活用のためには現行の規制の撤廃や改善が避けて通れませんが、この点に関してまだ不十分です。特に、家庭への医療サービスや遠隔診断などのIT技術の応用は、現行の医師法や薬事法で出来ないことが多く含まれています。勿論これは、今回の報告が最初であって、これからいよいよ規制に切り込むという意味だと理解しております。まさに、始まりの終わる(End of the Beginning)がこの報告書でしょう。

 イノベーション25の報告書自体が、イノベーションであるという結果に落ち着きましたが、これから現状維持派をいかにして変えていくか?社会構造のイノベーションが、イノベーション促進の一丁目一番地であり、冒頭から山場がくるという大変な挑戦です。黒川先生の荒馬の手綱さばきに期待しています。

 最後に余談ですが、私は中間報告のほうが好みでした。高市大臣の個人的な思いの発露、いのべ家の一日というまさにイノベーティブな報告書こそ、イノベーション25にふさわしいと思います。是非最終報告だけでなく、中間報告もお読みください。

大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授
知的財産戦略本部 本部員
アンジェスMG社取締役
森下竜一