第1回 成功への方程式?そんなものはありませんの巻


●皆さん。

 桜もそろそろ咲き始め、暖かくなってきました。昔でしたら、季節も良く、皆さんご機嫌ですよね?といえたところですが、花粉症でそれどころではないと、今では怒られそうです。実は、私も花粉症で3月の終わりからドラッグを飲み始め、毎日昏々と眠り続けていました(学会で寝ているところを見た方、あれは副作用ですので、私がいつも寝ているわけではありませんので、誤解のないように!)。一体いつになったら、花粉症の画期的な薬が出るのか?私が関係しているアンジェスで本気で開発しようかと思います。

 とはいえ、今日はご機嫌で、この原稿を書いています。というのも、今は札幌にいるからです。札幌は日本で唯一花粉症の関係のない天国です。最も、ご存知のように北海道は遺伝子組み換え食物をめぐり、大騒動で関係者の方にとっては北海道は地獄?だそうで、今後の展開が気になります。

 以前、日経BP社の宮田満さんと一杯お酒を飲んだばっかりに月一回のメールを頼まれ、泣き泣き一年書き続け(何度か原稿を落としながら)、やっと年季奉公が明け、女工哀史から開放されたと思ったのですが、今度は沖縄での一杯のお酒が原因で出口さんから頼まれ、再度女工哀史の歴史に逆戻りです。いよいよお酒立ちをしないと、いつまでもこの辛い生活から逃げることができないかもしれません。久々に後悔をしています。以前の宮田さんのプライム・メールもこんな調子で始めまして、宮田さんは頼んだことを後悔した?ときいていますが、出口さんも私とお酒を飲んだことを後悔していると思います(出口さん!首を切るなら、今がチャンスですよ)。

 しかも、今回は大学発ベンチャー成功の方程式という立派な?とタイトルをもらい、困惑しています。副題に書きましたが、そんなものあるんかいな?というのが、正直な感想です。そんなものがあれば、皆成功しますし、みんなが成功すれば、成功者はいなくなってしまいます。成功の方程式を書けるのは、ライブドアのホリエモンさんぐらいで、どこでもドアのリーマン・ブラザースでも後ろにいなければ、無理でしょう。皆さん、「ヒト・モノ・カネ」の必要3条件で苦労しているのではないでしょうか?とはいえ、ない!と書いてしまえば、連載終了ですが、これでは出口さんに一酒(一宿ではありません)一飯の恩義が返せませんので、必敗の方程式を書いていこうと思います。役に立たないと怒られそうですが、ベンチャーなんて失敗するのが普通ですから、むしろ多くの人?には共感をもってもらえるかな、と思っています。

 ここ札幌・北海道はご存知のようにバイオクラスターの一つで多くの大学発ベンチャーができています。沖縄と同様公共事業誘導型地域振興を諦め、大学を中核とするバイオ拠点を形成しようと意欲的なプロジェクトを進めています。既に、集積のあるIT企業との連携も進め、着々と起業数では成果をあげています。ハンズオン・ベンチャー・キャピタルも北海道VCがあり(ちなみに松田一敬社長は高校の同級生で、東京から北海道へ移転した変わり者?です)、道庁や北海道経済局の支援もあり、ベンチャーを生み出す制度はそろっている恵まれた地域です。

 では、もう北海道は自立的に成長し続けられるでしょうか?自分自身の起業経験(アンジェスMGという大学発ベンチャー)やベンチャー・キャピタル(バイオサイトキャピタルというハンズオンVCもしています)での経験からすると、会社を作るのは一番簡単、お金をVCから集めるのも比較的簡単、会社を運転・発展し続けるのは難しい、というのが、実感です。起業数が増えるのは、もちろん重要ですが、持続的な発展をさせることがもっと重要です。それには何が必要か?これが一番の難しさです。

 会社の出口として言われているのは、一般的に3つあります。株式公開(IPO)、会社売却(MA)、事業の成功です。一番難しいのは、この中でも事業の成功です。IPOは、道半ばでしかありません。何のために、IPOをして資金を一般の方から集めるのか?何のために大学発ベンチャーを設立したのか?この肝心の問いに答えられないよう??なベンチャーはすぐに会社売却を考えたほうが良いかと思います。

 自分の技術を世の中に出すため?これは違います。技術を世の中に出すのは目的でなくて、手段です。世の中におけるどのような問題点を改善するか?一体何を変えたいのか?これが、大学発ベンチャーとしての使命だと思います。そのために、会社(あるいは大学)の持つ技術を利用して変える。あくまでも技術はツールに過ぎません。アメリカにおけるVCの投資基準の一番は、What?です。その後で、How?と続きます。大学発ベンチャーを使って、どのような問題を解決しようとしているのか?これを是非明確にしてもらいたいと思います。何故、この技術が世の中で出なければいけないのか?これが明確になれば、応援する側も力が入ります。

 ご存知の方も多いと思いますが、いよいよ大学発ベンチャーのバブル?も終わる可能性が高まってきました。ある東大発ベンチャーが名古屋セントレックス市場に上場し、初値(市場での最初の値段)がつかず、わずか2日で50%下落するという考えられない事態がおきました。主幹事があのライブドア証券であるといった色々な疑問点が上場前から指摘されていましたが、多くの人の懸念が的中した形になりました。その是非はここでは議論しませんが、上場のハードルが高くなることは間違いありません。ベンチャーの皆さん、心して経営に当たってください。



●今日のキーワードは、「Needs/Problem(世の中のどんな問題を解決するのか?)」です。
それでは、まだ来月。See you next month!

●P.S. 今月の言葉は、「吾唯足知」です。隣の芝生はいつでも青く見えます。よそのベンチャーは、良い技術・良い人財・多くの資金を持っているように見えます。でも、一歩一歩しか前には進めません。何を自分たちはもっているのか、自分の手の中をもう一度見つめなおす。これも重要だと思います。


 追伸:私どもの研究室とアンジェスMG社では産学協同研究を推進する研究者を募集しております。アンジェスの新しい研究所が彩都にオープンしました。産学連携研究のスペースもあります。また、アンジェスは東京大学に10月から先端臨床医学開発講座(寄付講座)を開設いたしました。こちらでは、幹細胞を用いた再生医療やがんに対する新規治療法の開発を行います。東京・大阪のどちらでも大学院生や産学連携のポスドクを募集しております。ご興味のある方は、担当者の中神までご連絡ください(nakagami@cgt.med.osaka-u.ac.jp)。なお、私どもの研究室の詳細は、http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/で見ることができますので、ご覧ください。

 また、バイオサイトキャピタル社でも、キャピタリストを募集しております(http://www.bs-capital.co.jp/)。大阪・東京でも勤務できますので、世の中の役に立つベンチャーを育てたい、あるいは、ベンチャーを経営してみたい方は、是非ご応募ください。担当者に直接(info@bs-capital.co.jp)ご連絡ください。