第63回 「ワシントンDCの桜とDNA特許」


 ワシントンDCの日本の桜は100周年を迎えるが、桜といえばジョージ・ワシントンが桜の木を切り倒して、お父さんが「お前が切ったのか?」と聞いたとき、「はい、私が切りました」と正直に答えたストーリーが有名である。


 これは、伝記作家のパーソン・ウィームズ(メーソン・ロック・ウィームズ)がジョージ・ワシントンの死後に子供向けに書いたThe Life of Washington (1800)の中で書いた作り話である(資料@)。


 この話について、アメリカの弁護士仲間は、褒めた本当の理由は違うという。それは「正直に答えたからではなく、そのときジョージ・ワシントンはまだ手に斧を持っていたからだ」、というオチである。まあ、最近の社会では、子供が斧や金属バットを手にしていることは怖いことかもしれない…。


 ところで、現代の弁護士社会ではさらに理由が異なり、ジョージ・ワシントンはお父さんが切り倒された桜のDNAとジョージ・ワシントンの斧についていた桜の切りくずのDNAテストを事前に調べていたことを知っていたので、正直に答えざるを得なかったというのだ!まあ、DNAテストは確かに今や絶対的証拠に近い。


 それはともかく、この桜のDNAテストの結果では、ソメイヨシノは、日本の桜ではない、韓国の桜である、と韓国が主張している。彼らの理由は、これらの桜のDNAは韓国の済州島で天然記念物に指定されている美しい王桜のDNAと一致しているから、ということである。


 そして、「ワシントンの桜といえば、日本という考えは誤りで、日本には元々桜はなかった。韓国が桜の原産地である。日本はそれを移植しただけ」ということを世界中に明らかにしたいらしい。


 ところが、この桜の木の100年の歴史はについては、米国内務省の国立公園局(National Park Service)の「HISTORY OF THE CHERRY TREES」に非常に詳しく記載されている(資料A)。


 それによると、アメリカで研究していた薬学者の高峰譲吉博士(アドレナリンの抽出やタカジアスターゼの発明者:理化学研究所の設立提唱者の1人)が、1909年4月8日にタフト大統領夫人に日本の桜をワシントンDCに寄贈することを提案したことに端を発している。日本に住んだことのあるタフト大統領夫人は、桜の美しさを理解していたので、直ちに受け入れた。


 高峰博士から要請を受けて、尾崎行雄東京市長は1910年(明治43年)1月19日に、2000本の桜をシアトルへ送った。しかし、これらは毛虫や線虫だらけになっていたので、全て焼却された。次は、虫が発生しないように工夫を凝らして荷造りし、3020本の桜を1912年(明治45年)にワシントンDCに無事に運んだ。


 この時の桜の種類は、ソメイヨシノが1800本、関山桜350本、一葉桜160本等、12種類あり、そのうち御衣黄桜20本は全てホワイトハウスの庭に植えられたと詳しく記録している。そして、最初の桜祭りは、1935年(昭和10年)から始まった。第二次世界大戦中に何者かによって、4本の桜の木が切り倒されたが、本当の理由は分かっていないと記載している。


 桜をめぐる日米友好は、ますます発展し、1915年(大正4年)には、アメリカから返礼としてハナミズキ(dogwood)が東京へ送られた。植樹場所は不明だが、一部は都立園芸高校で発見されている(資料B)。


 以上のように、桜をめぐる日米友好は、最初の3020本が送られた1912年からちょうど100年になっているが、前述したように、韓国は官民一体になって、ソメイヨシノの桜は日本産ではなく、韓国産であり、これを明確にせよと米国政府に猛烈な働きかけをしているそうだ。


 きっかけは、2009年4月6日に聯合ニュースが記事にした、韓国国立山林科学院暖帯山林研究所のキム・チャンス博士が、ポトマック川の桜の標本を採取し、DNA分析を行ったところ、済州島の王桜と同じで、結局、日帝強制支配期に日本人が済州島の王桜を改良、増殖して、それをワシントンDCに送ったものだ(資料C)、という論文を発展し、それ以降、韓国の色々な者が同じ主張を繰り返し始めているそうである。


 しかし、実は、米国農務省は自身でその前にDNA鑑定を行い、ソメイヨシノと王桜は別種であると2007年6月に既に結論しているのである(資料D)。しかも、この分析を行ったのは、Roh、Choi、Cheong、Joung各氏という全て韓国系か中国系の研究者であるので信憑性ははるかに高い。キム・チャンス博士が、この4人の研究者のテスト結果をどう評価しているのかという話は全く聞いていない。


 ソメイヨシノの期限は、江戸時代の染井村(現、東京都豊島区駒込)で開発された「吉野桜」をいろいろ交配させてできたものということはほぼ証明されているという(資料B)。


 しかし、韓国は、アメリカ人や外国人がポトマックの桜を褒めれば褒めるほど、そして例年の桜祭りが盛大になればなるほど、このソメイヨシノは、韓国産ということを主張し、アメリカ政府に圧力をかけ続けるのだろう。


 このような韓国起源説は、実は桜だけでなく、日本のほぼ全ての著名なものに対して、韓国は大々的に行っている。その例を挙げると、以下のようなものである(資料C)。


 剣道、剣術、侍武士道、切腹、日本刀、居合道、柔道、合気道、空手、相撲、忍者、伊賀流、服部(私のことではなく、伊賀忍者の指導者)、茶道、千利休、華道、盆栽、和歌、演歌(古賀政男は韓国人)、折り紙、歌舞伎、花札、日本庭園、日本酒、寿司、刺身、醤油、味噌、味噌汁、納豆、沢庵漬、奈良漬、海苔、しゃぶしゃぶ、和牛(!)、うどん、長崎ちゃんぽん、イカ徳利、飴、「日本」の語源、日本人(日本人と韓国人・中国人のDNAは非常に異なるということは立証済みのはずだが)、日本語(!)、敬語、片仮名、万葉集(!)、天下り、下らない(百済からのものでないものは、大したものではないという語源であるとの主張)、奈良の語源、飛鳥地方の語源、神社、祇園祭、十返舎一九、蘇我氏、天照大神、卑弥呼、天皇、ヤマトタケル、スサノオ、乃木希典、佐藤栄作、岸信介…(これ以上はきりがないのでやめよう)


 以上の主張のほとんど全ては、韓国語に似た発音や語源等があるので、そこから発生したのだ、という強引な説で、まず事実無根がほとんどらしい。しかし、韓国ではこういう主張がどんどん流れているので、韓国の若者はそう信じている者も多いそうだ。


 ただし、このような韓国起源説は、日本のものにだけに対してあるのではなく、世界の主要国の著名なあらゆるものに対しても行われている。その例を挙げよう(資料C)。


 世界のあらゆる言語は元は韓国語(!)、アステカ文明、インカ文明、メソポタミア文明、黄河文明、チンギス・カン、イギリス人(!)、漢字(!)、漢方医、漬物、ピクルス、豆乳、羅針盤、アッティラ、囲碁、サッカー、印刷、ロケット(韓国の人工衛星打ち上げは全て失敗しているが…)、紙、床暖房、鎧、飛行機(古代の書物に「飛車」という記載があることから推察しているだけだが)、捕鯨、…(これもきりがないので、この位にしておく)


 中国は、漢字は韓国が起源、孔子、秦の始皇帝等は韓国系中国人といわれてカンカンで、そのせいか、中国人が一番嫌いな国は韓国(日本ではない!)という統計があるほどである。ともあれ、こういう韓国起源説が、韓国内だけに流れているならともかく、you tubeで世界に流しているので迷惑である。


 世界は情報戦争時代に入っていることは、ずっと前にも書いたが、「韓国は世界で一番優秀である。ほとんど全ての世界の文明は韓国が発生地である」ことを情報洪水で認めさせようとしているようだ。


 しかし、この主張は物事の本質を完全に見落としているといえる。大体、世界の工芸品や文化財は全て互いの国々の影響を受けながらミックスして発展しており、オリジナル性は当然に失われ、新しい「もの」として完成しているものがほとんどである。


 特に、桜のような植物は、自然によるミックスだけでなく、人類の英知による交配(ソメイヨシノはその典型)があって発育し、さらに今でも改良も進められている。そのうえ、そういう「もの」をめぐる長い間の文化的付加価値(桜でいえば100年間の日米協力)があったからこそ大切なものになるのである。


 それを全て無視し、オリジナルがたまたま自分の国のものであるから、ポトマック川の桜も韓国のものであるという主張は、正に虎の威を借る狐か狸でしかない。


 たとえ、万が一、起源説が正しかったとしても、自分の元の「文化」を今のレベルに発展させることができなかったことは、逆にいかに自分たちが文化的程度が低かったかということを自認していることと同じとはいえないだろうか。


 まあ、とにかく、こういう情報化社会で考えさせられることは、新しいものを開発したときに、特許を取っておくべきことで、ソメイヨシノもそのDNAを特許にしておいていたら、こういう事態にならなかったであろう。


 米国では、自然のDNAは特許にはならないが、変種させたDNA、あるいは自然のDNAでも、その一部は一種の人工物であるので、今の所は特許は与えられている。


 ところが、この3月20日に最高裁は、何でも特許を許すことを批判したMayo判決を下した。(資料E)そして3月26日には、DNA特許を認めた著名な高裁のMyriad社事件(乳癌の基になる変異DNA)の審理のやり直しを命じた。(資料F)この最高裁の差し戻しに対して、高裁がどのようにDNA特許を判断するのか見ものである。


 しかし、桜を鑑賞するのではなく、桜のDNAを鑑賞しなければならなくなったら風情も何もないが…。



出所:
資料@:「George Washington, 8.1 Cherry tree」 Wikipedia
資料A:「HISTORY OF THE CHERRY TREES」 国立公園局(National Park Service)
資料B:「ワシントン桜物語 アメリカと日本の友情を深める花」
資料C:「韓国起源説」 Wikipedia
資料D:「Research Project: GENETIC RESOURCES, EVALUATION AND INFORMATION MANAGEMENT OF WOODY LANDSCAPE PLANT GERMPLASM」 農務省Agricultural Research Service
資料E:Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., No. 10-1150 (2011年3月20日)
資料F:Association for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, No. 11-725 (2011年3月26日)


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