第57回 「情報戦争時代」



 この題目では既に記事を書いたことがあるが、毎年、年頭にはやはりこれを書かざるを得ない気になる。憲法第9条で戦争を放棄したわが国では、物理戦争を行うことは最早考えられない。


 多くの地方自体では、無防備地域宣言(戦争になった場合には一切抵抗しない)の条例化をすすめている位だ(幸いまだどこでも承認されていないが)。こういう人々は、侵略され、独裁統治されても仕方がない、それでも生きる方がいい、と考えているのだろうか。北朝鮮のように自分たちが半ば奴隷のようになってもいいのだろうか。


 まあ、その精神の是非はともあれ、世界がこれだけ情報が発達し、日本の国情を考えると、日本を絡めた本格的物理的戦争はまずないと考えてもいいのではないか。特にアメリカが圧倒的な戦力を有している限り、日本を絡めればアメリカも挑発することになるので、そういう戦争はまず生じないだろう。


 しかし、テロや内戦は別である。両方とも、情報化時代の産物の一つだ。自由主義国には情報が氾濫しているから、テロリストは行動しやすい。ところが、テロリストの国には情報が皆無だから報復は難しい。


 内戦は自国や世界の真の情報を国民に遮断して独裁政治を進めるためにその反発で生じる。テロや内戦は日本にとっては今のところ、対岸の戦争でしかないかもしれないが、では日本は戦争はありえないとノホホンと構えてよいのか。


 これはとんでもない誤解である。世界は物理戦争の代わりに、情報戦争、イメージ戦争時代に入っている。ウィキリークスが世界に衝撃を与えたのも、情報の恐ろしさの一面だ。とにかく独裁国家に限らず、野心的国は、相手国を徹底的に情報操作で叩く。


 中国との尖閣列島、韓国との竹島、ロシアとの北方領土問題は、完全に情報戦争も絡んでいる。彼らは、国内のみならず、世界に対して、これらの島は日本の領土でないと大々的に宣伝し、説得する。勿論、国内では、我が国の固有の領土であると言う情報しか流さないから、国民はそう信じきってしまう。そこには客観的情報、日本の主張なぞは何一つ流されない。


 これだけではない。


 中国や日本の本屋、図書館には、中国自身の地図が尖閣列島を日本の領土と記載した地図がかなりあった。しかし、中国ではそういう地図は全て回収、没収され、中国自身がそれを認めた証拠は全て隠滅されている。


 ところが、これは中国だけではなく、日本国内でも生じているということだから驚きである。日本の古本屋にある中国製の地図で、尖閣列島が日本の領土と記載されている地図は中国人によって買収され、国会図書館にある中国製の地図でさえその部分のページは何者かに破られているという。つまり、中国の情報操作は日本国内でも平然と行われているのである。


 その上、中国は世界に住む自国民(華僑)に対して、尖閣列島は中国の領土であるという海外キャンペーンを行うように働きかけている。一方、日本の政府は、尖閣列島に領土問題は存在しないという立場を取って、騒ぐことこそ領土問題があると誤解される恐れがあるといって何もしない。


 日本国内にある証拠さえ隠滅を阻止しようとはしていないようにみえる。これではゆくゆくは、証拠がなくなり、国際世論に負けていくのは当然である。


 その上、世界の国は日本というと目の仇にして騒ぐようだ。


 なぜだろうか。


 恐らく奇跡の復興を遂げ、次々と新製品を出す技術力がそれほど怖く、しかもアメリカの保護の下でぬくぬくと豊かに暮らしているように見えるからだろう。


 実際に私は安全性という視点に重点を置いたら、総合点では日本は世界でもっとも豊かな国になるのではないか、と思っている。まあ、万が一、トップでないにしても世界で5指に入ることはまず間違いないだろう。海外に住む読者諸兄も日本の良さを実感することは多いはずだ。


 勿論、中国や韓国もどんどん延びつつあるし、彼らの勢いは凄い。


 しかし、しかしである。


 両国とも経済成長はほとんど全て日本の技術を基にして成長しているといっても過言ではない。韓国の半導体、液晶、自動車は全て日本の技術から学び、国を挙げて大規模な設備投資をして価格競争に勝って市場を席捲したものである。中国製品もほとんどは日本技術のモノマネである。


 日本の特許出願は、毎年40万件出願され、これらは全て1年半後に公開されていく。公開されると最先にアクセスするのは、中国と韓国企業である。日本の技術はすぐに使える技術が多いので、これほど役に立つ新しい技術情報はない。


 米国政府はこの実情を知っているから、米国特許制度では全ての出願を公開しない。1月25日に発表されたばかりの米国特許法改革案でも、それを維持したままだ。


 勿論、日本の最新技術情報は、こういう正当チャネルだけでなく、企業退職者等の裏ルートからどんどんアジアへ流れているのである。


 北朝鮮は、ことあるごとに日本はアメリカの属国と揶揄するが、そのくせミサイルの部品の90%は日本の民生部品を使っている。つまり、日本の上空を飛ぶ北朝鮮のミサイルは、日本の製品ともいえるのである。


 こうした情報や部品の一方的流れは何とかしなければならない。


 しかし、日本は、敗戦の残像が未だに強く、世界に対して制限したり、対抗したり、モノを言う覇気、気力がない。いつもただ嵐が去るのを待つという消極的政治であり、外交である。これでは、日本の立場を世界が理解するはずがない。 日本のイメージは、情報戦争の中で日本や日本人の意識、認識とは全く関係なく刻々と世界で形成されていく。


 ただし、それでも国は豊かになると考え方にゆとりが出るものである。その良い例が、今回のサッカーアジアカップの日韓戦で生じた問題だろう。韓国選手はゴール後のパフォーマンスでサル真似をしたところ、何と韓国のジャーナリズムは、「あれは日本を蔑視する態度でよくない」と騒ぎ出した。韓国サッカー協会も謝罪した。10年前の韓国では考えられないことだ。


 これは韓国が経済的にもスポーツでも日本に追いつき、追い越しつつあり、また日本で韓流ブームになっていることからも日本に対する劣等感が払底され、気持ちにゆとりが出ているからだろう。


 数週間前に竹島近海で日本の警備艇が韓国船長を逮捕したときも、中国と異なり、韓国は静観したままである。明らかに韓国の日本に対する気持ち、姿勢は変わりつつある。結局、中国も彼らが豊かになり、大人になるのを待つしかないのかもしれない。


 しかし、韓国と異なり、中国国民には真の情報が一切シャットアウトされているから、中国国民が本当の日本を理解することはいつまでたってもない可能性もある。


 日本は情報問題をもっと真剣に考え、日本ほど安全でクリーンで、中立的で、常識のある国はないというイメージ、情報を徹底的に海外へキャンペーンする必要がある。


 ただ現実には、日本の世界平和度指数は、幸いにも既に世界でも評価されているらしい。イギリスのエコノミスト紙は、毎年世界の144カ国について、24項目(暴力、犯罪、軍事費、戦争等々)について各国の平和度指数を計算し、発表しているが、日本は毎年ベスト10に入り、2010年には3位にもなっている。これに対し、韓国は43位、中国は80位、米国は85位である!


 米国が悪いのは、犯罪率が高いのと、海外で軍事行動を起し、殺人(たとえ平和を維持する目的であっても)を繰り返しているからだろう。中国は、なりふりかまわず隣国のみならず、内国民でさえも圧力をかけ、益々覇権主義が台頭しているので、その順位はもっと落ちていくだろう。


 また、BBCは、毎年、世界で好影響を与える国を28カ国、2万9,977人に調査を行っているが、1位は59%のドイツ、2位は53%の日本であり、中国は41%、米国は46%とやはり低い。


 以上のようなデータにどの程度、信憑性があるかわからないが、日本を含む世界の主要国は、こういう現実の一面を理解すべきである。日本のジャーナリズムもこういうデータを活用し、日本人にもっと自信を与えるべきであると思うのは私だけだろうか。



記事一覧へ