第49回 北朝鮮と鳩山政権



 日本国内では、自民党の歴史的敗退による民社党の鳩山政権の誕生という大激変があったため、一時は、天と地を引き裂かんばかりの大騒ぎとなった北朝鮮のミサイル発射や、2人の中国系、韓国系アメリカ人ジャーナリストの逮捕と、クリントン元大統領による救出という北朝鮮を巡る騒乱は、まるで大劇場の回転床が動いたように関係のない出来事として忘れ去られようとしている。しかし、アメリカに住み、日本を外国の1つの国として客観的に見ざるを得ない私にとっては、これらの日韓を巡る事件は密接に関係する面があるという感じがする。


その理由はこうだ。


 北朝鮮のミサイル発射に際し、アメリカは、日本は、そして世界は北朝鮮にミサイルを作り、試射する資格はないと非難し、経済、政治、外交のあらゆる側面から制裁を課してきた。しかし、北朝鮮は、それらを全く無視し、あざ笑うように断固決行し、しかもミサイルは1回どころかあっという間に5、6回も発射し、その上で今は核兵器の製造をも再開しつつある。


 恐らく北朝鮮の内情は、経済的にも精神的にも崩壊寸前であろうが、そうならずにかろうじて耐えているのは、欧米を中心とする諸外国が、自らは有しながら、北朝鮮にミサイル放棄を強要する資格はないはずだ、という確固たる信念なのだろう。


何故、彼らはそう考えるのか。


 それは、欧米の大国は、今日の繁栄を築くまでに世界の資源を力づくで漁り、戦争で他国民を殺戮し、ミサイル、原爆を作り、現状の優位性を保つために今でも当然保有しているが、それを差し置いて、他国には戦争をするな、保有するなという一方的論理は、あまりに身勝手という素朴な疑問からだろう。アメリカは、所詮、欧州人がアメリカインディアンを殺害し、土地を奪い、黒人を奴隷にして築き上げた国である、ともいえる。勿論、欧米諸国が今日の世界の繁栄を築いてきたことも厳然たる真実ではあるが、裏の歴史を否定することはできない。


 ところが、中東や北朝鮮にはできることとできないことを指示し、日本とドイツに対しては60年前の第二次大戦での責任をいつまでたっても課し続け、その責任は未来永劫消えるものではない、とみなしているようだ。勿論、それは全くの事実であり、我々日本人やドイツ人は当然反省しなければならない点ではあるが、歴史を遡れば欧米、中国もそういう国であったことは疑いもない。


 彼らも第二次大戦の前までの何十世紀の間には日本やドイツの何十倍、何百倍の殺戮と繰り返してきて、今日の地位を築いてきている。そして、その地位を守るために、ミサイル、原爆を含むあらゆる兵器を保有している。ところが、北朝鮮や中東の国々に対しては、ミサイルも原爆も一切保有してはならないと要求する。


 その論理は私には不明だが、どうやら、これらの国には民主主義がない独裁国家で、いわばテロリズムの体制であり、いつ外国を侵略するかわからない、というのが大きな理由らしい。まあ、この論理に根拠が全くないと否定するつもりはないが、あまりに身勝手といえないか。


 だから北朝鮮は断固主張し、実行するようだ。そして、アメリカは2人のジャーナリストを救うために北朝鮮の要求を取り入れ、クリントン元大統領を派遣しなければならなかった。


この救出劇で誰が何を得たか。


 まずは、クリントン前大統領自身である。彼は現役時代の女性インターンスキャンダルや、今日の金融崩壊の元凶を作った政策(低所得者にも住宅ローンを可能にしたこと)を実行したとして、つい最近まで人気のない元大統領であった (ヒラリー国務長官が圧倒的に有利であった大統領選で敗れたのも彼の影があったためともいわれる)。しかし、この救出劇の成功で、「俺はあの元大統領が大嫌いだったが、今度だけは見直したといわざるを得ない」、という評価が多くの者から出ている。大統領をやめてから評価が上がったのは、カーター大統領とクリントン大統領位だろう。


 そして、見逃してはならないのは北朝鮮の頑張りである。確かに独裁政権であり、いつ戦争になるのかわからない恐怖はあるものの、一独立国として主張すべきことはアメリカに対してだけではなく、世界を相手にしても行うという姿勢は確かに評価されてもよい。


 特に同じように圧迫を受けている中東や途上国からは喝采を浴びるのではないか。だからこそ二人のジャーナリストの救済に対しクリントン元大統領を要求しても世界は非難も何もしなかった。否、それ以上に、アメリカに対してさえ正々堂々と主張し、要求すれば制裁措置さえ我慢すれば成就し得るということを世界に示した。ミサイルは今後も実験し続けるだろうが、それに対し世界は非難することはできても、正論とはいい難いため、影響力は極端に弱くなるだろう。


 小国でさえも戦える、ということを念頭においたかどうかは必ずしも明らかでないが、鳩山内閣は、今後のアメリカ離れをしてアジアを重視していく、という政策を発表した。発表した翌日アメリカの反応は、日本は生意気になった、そんなことで日本はまともに国を運営できるはずがない、という非難轟々の意見が出た。しかし、鳩山政権が臆せず姿勢を変えずにいると、次にアメリカは大物政治家を日本に派遣して日本と話し合う、説得するという姿勢に変わってきた。この微妙な変化ほど日本にとって重要なものはない。


 これまでの日本はアメリカが怒るとすぐに縮み上がって、アメリカ寄りの外交に修正してきた。それで得られたものはアメリカからのサポートであるが、逆に、世界からアメリカの属国と蔑視されてきた。


 その1つの例が、日本が国連の常任理事国になることに対して中国、韓国等が何が何でも反対したことである。 勿論、彼らの反対は、この3国の歴史的背景が最も大きな要因なのであろうが、アメリカ一辺倒であれば、諸外国は日本を常任理事国にすることはアメリカの票が増加するだけ、としか評価しないことも胸に留めておかなければならない。


 これを考えてか、ドイツは最初からアメリカ一辺倒から離れたため、常任理事国へのアメリカのサポートさえ失ったが、時間がたてば必ず他国からのサポートがくるはずである、という読みがあるのだろう。鳩山政権のアメリカ離れを察してか、CO2 25%削減の発表は、世界中から大喝采を浴びることになった。アメリカ離れをすることは、アメリカと喧嘩することではなく、独立国として当たり前の主張をするだけである。


 北朝鮮のこの数年間の動きは、世界の国々からは、何を馬鹿なことをしている、という風潮から、中々やるじゃないかというように現実に変わってきているのではないか。勿論、北朝鮮の国情は、明日、経済破綻をするか、クーデターが起こるか、戦争を仕掛けてくるかわからない一触即発の状態ではあるが、スーパーパワーの国々の力の外交に屈しなければ、制裁措置はあるものの、逆に諸外国から評価されるかもしれないということを示したことも忘れてはならない。


 世界第2位の経済力、技術力を有する日本にそれができないはずはない。世界の製品の多くは、日本の技術で支えられているのは疑いもない事実である。北朝鮮のミサイルの部品の90%は日本の部品、それも民生部品から成るといわれる(北朝鮮の亡命者の2003年5月のアメリカ議会での証言)。


 アメリカの象徴であるオートバイのハーレーダビッドソンは、性能があまりに悪すぎたため、何年か前に完全に潰れかけたが、日本の部品を購入することによってかろうじて息を吹き返している(それでも、ハーレーダビッドソンに乗るヘルズエンジェルス(地獄の天使)という暴走族の頭領は、10年前のワシントンポストの引退インタビューで、「オレが本当に乗りたいのは、ホンダのオートバイだ」、と正直に言っていた)。


 アメリカは自動車を含むほぼ全産業のみならず、防衛産業でさえも、日本の電子技術が必需品になっており、NASAもその依存率は非常に高い。こういう現実を踏まえて、鳩山政権がアメリカ離れを打ち上げ、日本のプライドを取り戻す政治、外交を行おうとしていると考えられるが、今後も屈せずにそういう方向に日本が進むことを期待したい。そして、アメリカ以外の国々から、評価されてこそ日本は常任理事国になるチャンスの芽が出てこよう。




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