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第37回 日本は大国か、小国か?


 最近、日本の出張で結構面白い本を見つけた。それが岡崎大五氏という海外旅行専門家が書いた標題の本である(新潮社出版2007年11月20日発行、700円)彼は世界を旅行してあらゆる国から日本の色々な評価を聞いている内に、一体に本当に我が国は世界の中で大きいのか小さいのか、という疑問を持ち、国土面積、人工等の種々の観点から統計的に比較した本である。

 これはアメリカという国に住む我々日本人にとって、自分の国を客観的に知る上で貴重な情報であるので、その内のいくつかの統計を紹介し、著者自身の分析、感想を紹介したい。

1. 国土、人口
 まず、国の大きさの比較には国土面積の比較が一番良いだろう。その国土面積で比較すると、表1に示されるように、ロシアが圧倒的に大きく、2位カナダ、3位アメリカの倍近いという桁違いの大きさである。但し、冬季では国土の多くが凍結し、軍事的にも民事的にも1年中の不凍港を保有することがロシアの夢であるから、大きいということだけでは有利にはならない(だから温暖化はロシアにとって悪いことではない)。

 しかし、地下資源の豊かさは技術開発が伴えば将来は圧倒的に有利であろう。その後は4位中国、5位ブラジル、6位オーストラリア、7位インドと続き、その後に8位アルゼンチン、そして9位はカザフスタンという意外な国が入っている。カザフスタンはウランや石油を豊富に有しているので日本にとっても重要な国であると岡崎氏は書いている。

 ところで日本は世界で何番目かというと、世界の約200国の内の62番目で、大体上位1/3に入っているので国の物理的大きさでは必ずしも小国とはいえない。ところが、この日本を西ヨーロッパ諸国(ロシア等を除く)と比較すると、日本はフランス、スペイン、スウェーデン、ノルウェーについで5番目の大きさである。つまり、我が国は、ドイツ、フィンランド、ポーランドより大きいのだ!

 西ヨーロッパの先進諸国を大国とすれば日本も物理的大きさでも大国の中に入るのである。但し、ヨーロッパは共同体であるからこそ、一国々々はそれほど大きくなくても大国になり得るが、日本は孤立しているのでその点で異なるが。

 次に表3の人口で比べると、中国13億人、インド11億人と両国が圧倒的な1、2位で、以下アメリカ3億人、インドネシア2.2億人、ブラジル1.9億人等となり、日本は1.28億人で世界の10番目で十分大国といえる。そこで、国土面積を人口当りの大きさで比較して土地の余裕度を表4に見てみよう(本にはその記載はない)。

 すると、人口当り一番余裕のある国はカナダで、1人当りの面積は30万u≒9万坪≒東京ドーム約30個分である。そしてロシアはカナダの約1/3なので1人当り10万u≒東京ドーム10個分≒約3万坪の広さ。アメリカはカナダの約1/10なので1人当り3万u=約9300坪≒東京ドーム3個分となる。日本はアメリカの約10分の1(カナダの約1/100)の大きさで、1人当り3000u≒約930坪≒東京ドーム約1/3であり、これでも世界で大体3分の1位に当るのだろうか。

 ところが、ヨーロッパ諸国をみると、人口が少ないせいか、この値はずっと高くなり、スペインがアメリカの約4倍、日本の約40倍の12万7000u≒東京ドーム約12個で1位で、2位がギリシア12万3000u、フランスはアメリカの約1/3の9200u、デンマーク8000u等となっており、日本より国土の小さいドイツでも4300u≒約1300坪で日本より若干大きい余裕がある。

 しかも、問題は日本の国土の7割が山岳と森林で覆われ、可住地面積が欧米諸国に比べて非常に少ないので、1人当りの可住地面積の比較となると日本は、とても世界の1/3に入らず、欧米諸国よりはるかに小さい値になっているのだろう。これが、我々は小国と考えてしまう理由の大きな1つであろう。

 しかし、高低差があることは位置エネルギーがあることでもある。地球はいつの日か地下資源は枯渇することになる。その時にはたとえ位置エネルギーでもある方がましではある。ドイツはヨーロッパ諸国と比べて、そして日本とさえ比べても国土面積は狭いので、葡萄畑は、平地は当然として、南向きの山地斜面にもぎっしり作られ、ありとあらゆる場所まで開発して利用している。

 鉄道を敷設するために切り開いた山や側面斜面にさえにも小さな葡萄畑が作られ、涙ぐましい開発努力が見られる。これを見ると日本も山岳地帯をもっと開発し、利用しても良いとも考えられる。


2. 経済比較
 次に、表5の国民総所得(GNI)を比較してみると、アメリカが12兆9695億ドルと圧倒的に高く、世界2位は日本で4兆9882億ドル、ついでドイツ2兆8523億ドル、中国2兆2638億ドル、そしてヨーロッパの4国に加えてカナダが2兆ドル前後で続いている。

 これも人口一人当りの額に換算しないと真の豊かさは計算できない。表6がその値であるが、何とヨーロッパのとんでもない国がトップに出てくる。まず、ルクセンブルグ(この国は何をしているのだろうと思う人も多いのではないか…)が1位で4万6000ドル(約500万円)、2位ノルウェー4万5700ドル、3位スイス4万2000ドルで、4位にやっとアメリカの3万9600ドル、5位に日本3万6400ドル(約400万円やった!やった!)、6位デンマーク3万5500ドル、7位アイスランド3万2400ドル、8位スウェーデン3万ドル、9位イギリス(やっと)の2万9900ドル、10位がフィンランドの2万8500ドルである。

 そのあとはドイツ、イタリアあたりなのだろう。つまり、ヨーロッパでは小さな国が実に豊かなのである。人口の多い国でトップ10に入っているのはアメリカと日本だけだから、そういう意味では日本は大したものであるともいえる。


3. 住環境
 なるほど日本は経済的にはすごく、国土総面積もヨーロッパ諸国に比べてもまあまあである。しかし、我々はウサギ小屋と呼ばれるほど住環境が悪いと考えているのが、ほとんどの日本人だろう。本当にそうなのか?

 ここで表7の世界の一軒当りの平均床面積を見てみよう。世界のトップは勿論アメリカの1軒当りの平均162u(約50坪)は当然として、ルクセンブルグ126u(39坪)、3位スロベニア114u(35坪)、4位デンマーク109u(34坪)となるが、何と日本は5位の94.9u(29坪)で、その次にオーストリア、フランス、ドイツ、イギリス、チョコ、ポルトガルとなっている。これを見る限り日本人の家は小さいどころか、世界の第5位である!

 但し、日本は1位アメリカを除くと、他の2〜10位の諸国に比べて人口が多いから、1人当りの床面積で計算すると上位から、かなり落ちるのだろう(このデータはなく、1軒の計算の仕方が不明なのでとりあえずの計算もできない)。


4. 食料自給率
 食料自給率は戦争になれば、これほど重要なファクターはないが、今の日本には戦争というファクターは一切考えられない。日本の全ての政治家が我々は戦争ができない国、という前提で外交を考えているのが、その証拠である(石原慎太郎氏はどう考えているかは知らないが、彼一人では何もできない)。これは憲法の問題というより、今の日本(人)の精神構造の問題である。ともあれ、主要先進国12カ国の中では日本は当然最下位の自給率40%である。

 しかし、これはそう心配することではない。世界で自給できる国は恐らく表8にあるトップ5ヶ国に数ヶ国(アルゼンチン等)を加えた位しかないだろう。つまり、世界の約200ヶ国の大部分は自給できず、平均自給率は日本より悪いかもしれない。

 このことは全世界の国々が一斉に戦争に突入したらともかく、これからはたとえ戦争になったとしてもほんの数ヶ国が争う位しか考えられないので、戦争というファクターはそう心配ないともいえる(但し、この問題は私は全く素人なので防衛省関係の人に聞いてみないとわからないが)。


5. 防衛費
 最後に防衛費を見てみると、日本は世界4位である。しかも、兵器の質、内容は世界の最新の防衛兵器(アメリカのイージス艦等の購入)を有しているといわれる。しかし、1人当りの防衛費を見ると日本の346ドルはヨーロッパ諸国の420ドル(ドイツ)〜750ドル(フランス)よりも低いどころか、韓国の435ドルよりも低い。 もっとも、中国も1人当りすると62ドル、インドとなると17ドルと更にぐっと低くはなるが。

 しかし、防衛は一人当たりよりも国土面積当りで計算した方がより正当かもしれない。1u当りの防衛費はやはりアメリカが548ドルと断トツで、他の国では韓国211ドル、イギリス178ドルと国面積が小さい国が高く、その他のヨーロッパ諸国と日本は大体100ドル前後である。つまり、日本の防衛は悪くてもヨーロッパ並みといえよう。


6. 総合
 「日本は世界で第何位?」の本は以上以外にもセックスの回数(日本は先進国では最低らしい)、パソコンや携帯電話の普及率等の様々なデータが示されているが、ここでは、それら全て紹介する紙面はない。それでも本誌に紹介した統計は、各国の国力を本当に比較するには十分ではないものの、一応の目安にはなるだろう。

 すると日本は1人当りの国土面積や食糧の自給率でかなり劣っているが、それ以外の数値は全てヨーロッパ並みかそれ以上である。まして、住居の1軒当りの平均床面積が世界の5位とは信じられないほどの数値である。

 日本に帰ると、町や道路の清潔さ、水田の美しさ、食物の種類の豊富さ、電車の便利さ、正確さ、こそ泥の少なさ(財布を落としても結構出てくるのは世界で日本だけだろう)、人の親切さ、安全性を考えると日本は間違いなく小国ではなく、まずヨーロッパ並みかそれ以上の国といえる(ヨーロッパのこそ泥の酷さは目に余る)。

 しかし、我々日本人は日本は小国だと考える人が多い。その劣等感も実は日本は全ての指標を世界のトップと比較するからである。国土面積といえばアメリカ、ロシアと比較し、社会保障といえばスウェーデンと比較し、住居、映画、音楽といえばアメリカと比較し、歴史といえばヨーロッパと比較し、食物の量といえばやはりアメリカと比較し(それでもさすがに食物の質となると日本がナンバーワンと考えている人が多いようだ)、クラシック音楽といえばドイツ、イタリアと比較し、歓楽街といえばパリと比較し(但し、銀座は世界に比較のないナンバーワンだろうが)…という具合に。

 それぞれ世界のナンバーワンと比較すればアメリカでさえも、たまったものではない(アメリカの鉄道の両側はまず廃墟かスラムの家々であるが、日本、ヨーロッパでは美しい町並み、田園が続く)。

 まあ、このように全てを世界の最先端と比較する日本人だから、それほど自意識が強いという国民なのかもしれない。

追記:
 さて、私にはもう1つ入手したいデータがある。それは各国が今までの何世紀かの戦争で何人の外国人の死者を出してきたかというデータである(何人外国人を殺戮してきたかという表現の方が単刀直入だが、ちょっと物騒なのであえて用いていない)。

 日本とドイツは60年前の戦争で多くの外国人の死者を出して未だに残忍な国民であるというレッテルが貼られている。それに対してアメリカはベトナム、イラン、イラク戦争で何人死者を出したのであろうか。中国もチベットやら何処やらで何人出したかわからない。韓国でさえベトナム戦争に加担して凄まじい死者を出した。

 イギリスも結構出しているはずだ。しかしこういう国は戦勝国として誰も残忍とはいわない。そして、もっと歴史を遡ればヨーロッパとアメリカは何世紀もの間世界中で散々死者を出し今の平和国家を作り上げた(アメリカは何人のインディアンと黒人の死者を出してきたのだろうか)。

 こういう何世紀の間にどの国がどの位戦争で死者を出してきたかという記録を誰かが作るべきである。勿論、日本やドイツの戦争を正当化する意図は毛頭もないが、歴史から見ればわずかこの50〜60年間だけに焦点が当てられ、他の国々はあたかも戦争も何もしてこなかったふりをして、あるいは戦争は正義のために行っているので過去の戦争とは異なるという身勝手に日本とドイツだけを批判していると思うのは私だけだろうか。

 戦争はどのような形であれ人間を殺している点では同じであり、同等に扱われなければならないはずだが。


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