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第27回 「プルート、宇宙、地球、人類の運命」




 太陽系の一番外側の惑星である冥王星、プルートが矮(わい)惑星に「降格」されたことは記憶に新しい。これはプルートは太陽の周りを回っているものの、まともな軌道を有していないので地球のような惑星ではなく、宇宙を漂う星、矮惑星(dwarf planet)に過ぎないという宇宙研究者の結論らしい。この地球人の決定に対して、プルートは、女々しく(差別用語?)軌道情報が捏造されたとか、俺は納豆とは違うとかの無軌道な抵抗はせずに素直に認めたようだ。

 しかし、一体本当は何が理由だったのだろうか。

 どうやら惑星と矮惑星は以下の違いがあるらしい。

 地球のような惑星になるためには以下の条件を満足することが必要である。
 1.太陽(恒星)の周りを公転していること
 2.自己重力で球形になっていること
 3.軌道上の他の天体を排除していること
この内、1、2、の要件はプルートでも満足するだろう。3の要件は地球のようにその公転軌道上に他の天体が入らず、自分だけの公転軌道を独占している事なのだろうが、どうやらプルートはそうでなかったらしい。

 しかし、矮惑星になるためには更に4つ目の要件がある。それは、「衛星でない、つまり惑星(地球)の周りを回る星ではない」、という条件がである。これもプルートは満足する。このように、地球の月や木星のタイタン等は矮惑星にもなれず、単に衛星と呼ばれることになる。

 今頃になって「降格」された理由は、近年、特にハップル望遠鏡のおかげでその軌道が上記条件を満足していない事が明らかになったことのみでなく、太陽系の中でプルートより大きい衛星や矮惑星が多数あることが次々に発見されたので、この際正確に定義しようということらしい。プルートの発見者がアメリカ人だからアメリカ研究者が相当抵抗すると予想されたが、意外にすんなり決まったのは意外だ。

 そのアメリカ人はローウェル天文台のローウェル所長で、彼は太陽系の当時の最遠星の海王星の軌道にふらつきがあったため、その外側に必ず惑星があるとその位置を予測して、大捜査を始めた。しかし結局彼自身は発見できず、死後その弟子のトンボが発見するに至った。その名前をどうするかでローウェル未亡人は世界中に公募したが、彼女が気に入った名は中々出てこなかった。その時、イギリスの11歳の少女バーニーがギリシャ神話からプルートという名を祖父に提案し、その祖父がローウェル未亡人に伝えたところ、直ちにそのプルートの名前が採択された。子供のひらめき、発想とは時に英知に富んだものになるのだ。

 ともあれ、アメリカにとってはプルートという名はやはり大事らしく、面白いのはディズニーの反応である。ディズニーのまんがの犬にプルートという耳と舌の長い犬がいるが、その名前は冥王星(プルート)が発見された1930年にディズニーがこの世の中に生み出した犬だったからだ。その冥王星プルートが「矮惑星(dwarf planet)」に降格されたので、白雪姫の7人の小人達(dwarfs)が「心配するな、僕達の仲間に入れてやるよ」というコメントを出した。

 たくましい商魂といえばそれまでだが、あらゆるネタをさっさと宣伝に利用してしまうアメリカ企業の機転の早さ、ずる賢さは脱帽するばかりである。

 いずれにせよ我々は宇宙規模から見れば地球の直ぐそばの冥王星のことをやっと正確に知ったともいえるが、同時に我々は140億光年の広がりの宇宙をかなり知っているのだからすごい。冥王星までは地球から約50億キロメートル、光の速度だと約4時間の距離である。太陽は地球から光速で8分位しか離れていないから(つまり我々は常に8分前の太陽の姿を見ているのだ)、地球規模的にはいかに遠いかわかる。よって太陽光もほんの僅かしか届かず、しかも、地球の5分の1の大きさでハップル望遠鏡でやっと見える程度だからそれだけ冥王星の動きは計測しにくかったのだろう。

 その位、太陽系は大きいともいえるが、それでも全宇宙からみるとコメツブほどの大きさもない。太陽系の大きさは要するに光の速度で4時間ちょっとくらいのものだ。太陽系が属する銀河には約2000億の星があるといわれているが、その直径は10万光年といわれる。つまり、太陽系の大きさの2000万倍(2×10の7乗位)である!いかに太陽系が小さく、地球が小さいかがわかる。

 その外側には更に何千億という銀河が大宇宙にちらばっており、宇宙の最遠端にある距離は135億光年だから我が銀河の直径の10万倍ということになる。しかし、これは同時に宇宙が有限である事を意味し、有限とは「夜」が存在する事から知られたことでもある。もし宇宙は無限とすると夜空に無限の恒星(ほとんどは太陽と同じ)が存在することになり、星は無数に増えるので「夜」がそもそもあり得ないからである(ドイツ人天文学者オルバースのパラドックス)。

 それはともかく、今回は冥王星の動く軌道が問題になったが、地球も太陽も銀河もすさまじい勢いであちこちに(!)動いているのだ。

 地球の自転は24時間で1回転、つまり赤道の円周の長さは4万Kmだから時速1667Km、つまり秒速460Kmで自転している。ワシントンD.C.付近の位置が北極と赤道の間の大体半分位とすると秒速230Kmで動いていることになる。つまりこの記事を読んでいる方は次の行を読む間にワシントンD.C.からニューヨーク近くまでの飛ばされているのだ。

 そして地球は太陽の周りを公転しているのがその速度はやはり秒速200Kmといわれる!更にこの太陽系全体は(天の川の全ての星と供に)超巨大な銀河の中をやはり秒速220Kmというすさまじいスピードで動いている。これは、銀河の中を一周するのになんと2億年かかるという巨大さである。つまり太陽系が前に同じ位置にいた時には地球上に恐竜がうようよしていたのである。太陽系ができてから40億年位(宇宙や銀河は生誕135億年)といわれるから太陽系(そして地球)は銀河の中をまだ20周位しかしていないことになる!

 ところが、その銀河さえ動いているのだ。この我々の銀河は16万光年離れた(つまり銀河の直径よりちょっと遠いだけ)隣にある大マゼランと小マゼラン星雲と互いにぐるぐる回りあっている。

 それどころではない。更に最も近い130万光年離れたところにアンドロメダ銀河という巨大銀河があるが、我々の銀河と互に毎秒100Km位で近づいており、後何10億年か何100億年後には合体するという。

 まだまだある。地球の銀河も大小マゼランもアンドロメダも一塊の大群となって宇宙のある一点(確か、おとめ座)の方向に向かって一斉に吸い寄せられるように動いているというのだ。一体地球は宇宙のどこをどのように動いているのだか見当も付かなくなる(これを読んだだけで船酔いになる人がいる?)。

 これだけ動いていても我々が感じない1つの理由は地上の全ての物体が同速度で動いているので全く動きは感ぜられないからだ。次に、地球のあらゆる方向の運動は全て等速運動ということである。電車やエレベータが定速で走っている時は誰も速度を感じない。感じるのは発進と停止の時の加速度や減速度があった時だけである(慣性の法則)。船酔いがあるのは数秒間に何度も加速、減速があるからだ。

 他の理由としては、月や太陽や恒星があまりに離れているので互いの動きにスピード感が全くないためである。これがもし月や太陽が窓の近くにあったら、あっという間に姿を消すので恐ろしいスピードと理解できるだろう。

 ところで、宇宙は膨張しているという話は誰でも知っていることである。その通りで、もっともっと大きい規模の宇宙で見ると宇宙は単に膨張しており、全ての銀河はどんどん離れているのだ。

 我々の周りにある銀河団(銀河、大マゼラン、小マゼラン、アンドロメダ・・・)はあまりに規模が小さすぎて、その局部範囲内では膨張どころか互いに近付きあい、いつかは全ては合体してしまうというからややこしい。2000億個の星がある銀河同士が衝突するとさぞかし星同士の大衝突が始まると考えがちだが、実際はそうではないらしい。

 それは銀河にある恒星の密度はあまりに小さく、太平洋にすいかが2、3個浮いている程度だから太平洋同士の大きさの銀河がぶつかってもスイカのような恒星同志はすいすい通り抜けるのだ(JR社は喜ぶのではないか)。

 いずれにせよ遠い先に銀河の合体があれば地球はなくなるだろうが、実はその前に地球は太陽に焼き殺される。太陽は水素を核融合して輝いているが(天の川の恒星(北極星等々)も全て同じだから遠くから見える)、その水素も40億年後くらいには燃焼し尽くされる。そうすると太陽は赤色矮星として大膨張をし始め、地球を飲み込み、灼熱の地獄にする。その熱はプルートまでは届かないだろうから、プルートは「ふん、勝手に降格させたから焼き殺されてしまったじゃないか」とせせら笑うかもしれない。

 太陽よりもっと大きい星は核融合が終ると超新星爆発を起こし、そのエネルギーはおよそ1000個の太陽の全エネルギーを10秒間に放出する時と同じ位のすさまじさという。

 しかし、超新星爆発の最も重要な点は重金属を生み出し、宇宙に放出するという点である。この宇宙は元々は水素しかなく、金属類は一切存在しなかった。まず、水素が集まって太陽のように大きなものは核融合を始めて輝き出す。木星は小さ過ぎて重力が十分でなく核融合が起こらないので「太陽になり損ねた星」といわれる。この時点では地球や火星のような固体の星はまだ生まれていない。

 超新星爆発で宇宙に金属がばらまかれると、やがて重力で集まってその時初めて地球のような固形の星が出来るのである。従って、重力がなかったら水素は集まらず恒星は出来ず、太陽も出来ず、超新星爆発もなく、地球もできず今の宇宙は単なる水素の集まりだけになっているのだろう。つまり、冥王星も太陽も、地球も人類もこの宇宙の物質には全て重力が働くという原理から生まれたといってよい(ニュートンの評価は益々高くなる)。

 新年早々何故、このような話を持ち出したかというと、人間が行っている戦争があまりに惨めで小さなものであるといいたいからである。ブッシュ政権はイラクのみならずイランにも戦争を始めるようだ。北朝鮮も中国も着々と戦争体勢を整えている。ヨーロッパ各地でも怨念戦争が始まっている。人間は確かに異常な知恵を有しているが、情報があまりに富んでくると過去何があったかを鮮明に叩き込まれるようになり許せなくなるだろう(中国、韓国が日本に対して執拗に「過去」を主張するように)。情報はあるに越したことはないが、情報に溺れてはダメだ。人間は宇宙から、歴史から何かしら学んでいるかもしれないが、結局は我々も超新星のように爆発して滅んでいく運命にあるのかもしれない。

 そういう意味では宇宙も地球も人間もそれほど変わらない存在なのだろう。  ただ、そうして何10億年か後に滅びて宇宙に散乱しても、再び重力で集まりまた我々は異なる形で生き返れるのかもしれない、という遠い遠い遥かな希望が全くないではないが。

(記事中の数字はあいまいな記憶や拙速な計算なので誤りがあるかもしれませんので全面的に信じないように)