第4回 Entrepreneurship教育の試み



●日本の将来は起業家の数を増やすことが課題

 今回はEntrepreneurship(事業家精神)教育に焦点をあわせてお話します。「産学連携とEntrepreneurship教育の関係は?」と疑問を抱く方がいらっしゃると思いますが、その辺の議論から始めたいと思います。

 産学連携推進施策の変遷をながめると、共同研究に関わる規制の緩和、TLOの整備、兼業規制の緩和、「大学発ベンチャー」創出の支援、へと進化してきたことがわかりますが、その延長線上に人材養成を位置づけることができます。これらの施策の背景には「イノベーションの誘発による経済成長・雇用創出」という目標が存在します。この目標を達成する手段として、新たなイノベーション・システムの構築が掲げられ、産学連携推進に至ったわけですが、大筋の枠組みが構築された今日、その枠組みを動かしていくアクターに重点が置かれるようになったのです。

 TLO、リエゾン・オフィス、インキュベータ等、技術移転の現場で要求されるのが、Management of Technology(MOT)の能力であり、また、技術を創出する側、活用する側においても、MOTの発想無しにしては、「シーズはいつかニーズにつながるであろう」という、偶然に身を任せる従来型の技術移転から脱皮することが難しいと考えられます。よって、「MOT教育が必要である」ということになります。

 また、「大学発ベンチャー」という発想を支えるためには、日本にはまだ少数派と言われる「起業家」の数を増やすことが大きな課題となります。起業家精神は先天的なものであるという議論もありますが、習得可能であると想定することによって、On-the-Job Training(OJT)以外の手法であるMOTプログラムの整備が施策として登場したわけです。

やっとMOT教育にたどりつきましたが、では「Entrepreneurship教育との違いは?」という疑問が浮上します。まずMOTですが、「We define Management of Technology as the set of activities associated with bringing high technology products to the marketplace」と、UC BerkeleyのMOT Programはスマートに定義しています。具体的には、ハイテク分野における製品デザイン、製品開発プロセス、マーケティング、IT戦略、サプライ・チェーン・マネージメント、特許戦略、起業家精神、等といった多種多様な講義メニューを用意するわけですが、大きく二つの教育目的を見出すことができます。

 一つは、形式知化されたMOTのテクニカルな側面の修得、もう一つは、暗黙知的な要素を多分に含む起業家精神の養成です。「Entrepreneurship教育」と称するのは、後者であり、ここでは、講義の場において教育手法に工夫をこらす、教室外での活動をセットする、様々なプロジェクトに学生を参画させる、等といった取り組みが必要になります。教官には、常にイノベーティブであること、また、教育活動に利用できそうな機会を臨機応変にキャッチし、試行していくことが要求されます。

●起業家精神の育成は子供教育から

 大分前置きが長くなってしまいましたが、本題の「Entrepreneurship教育の試み」に入ることにしましょう。事例として取り上げるのは、仙台市立太白小学校長である渡邊忠彦さんの試み(注1)です。
 
 Entrepreneurship教育とは、対象となる学生のものの見方、考え方、在り方にまで入り込む教育であることから、大学レベルのみならず、更に初等・中等教育のレベルでも導入すべきではないかという議論が登場します。試行としては、学校という枠内で、生徒に仮想企業を立ち上げさせ、事業計画から販売までの一連の企業活動を体験させるというのが、一般的なものですが、そこで、肝心なのは、教育効果として何を目指すのかという点です。「お金儲けの方法を学校で教えるとはけしからん」と頭ごなしに、拒否する方もいらっしゃいますが、それは、本来のEntrepreneurship教育の姿ではないことをまず確認する必要があります。

 太白小学校では、明確にEntrepreneurship教育のミッションを提示しています。起業教育を「生活の中から社会に自立を図る学び」と定義し、「個の能力を最大限に育てる」ことをそのねらいとしています。具体的には、先にも述べたように、仮想の企業を立ち上げたりして、「生産者や経営者側に立って問題解決に取り組む学習」を行うわけですが、そのプロセスの中で、生徒たちは主体者として問題に向かい合い、アイデアを出し合い、意思決定をしていくという、これまでの受身の学習とは異なる体験をするわけです。また、社会システムの中で企業活動がどのような役割を担っているのか、労働とは、お金とは何ぞや、といった社会を見る目を養うとともに、その社会の中で自分をどのように位置づけていくのか、という点にまで踏み込み、「自立を図るための芽」を育んでいるそうです。

 太白小学校のEntrepreneurship教育の試みの中で、特筆する点がもう一つあります。それは、学校と地域社会との連携です。地域の経済活動に問題点を見出し、地域の人たちに参画を求め、Entrepreneurship教育を実践していくというスタンスから、生徒たちは、地域からサポートを受けつつ、地域へ働きかけることを学んでいきます。

 校長のイニシアティブによりスタートしたプログラムですが、最近では、生徒たちがイニシアティブを取り、校長に新たな試みを提案することもしばしばあるそうです。

 この事例から何を読み取るかというと、Entrepreneurship教育の根源にあるのは「自立」と「チャレンジ精神」だという点です。また、昨今、「大学の地域貢献」に注目が集まっていますが、これは、大学の独壇場では無く、いろいろなレベルで教育機関と地域とが連携しているわけです。

●教育システムと社会との関係を見直す時

 最後に一言。日本の教育現場にはEntrepreneurialな人材が存在しますが、新たな試みを実践に移す際、規制、慣習等がバリアとしてそびえ立っているというのが現状です。それを乗り越え、成功事例にもっていくのは至極の技です。産学連携推進の流れの中で、大学および大学教官に関する規制緩和が推し進められていますが、より広く、教育システムと社会との関係を見直す時にさしかかったように思えます。
 皆様はどのようなEntrepreneurship教育をご存知ですか?また体験なさいましたか?

(注1)http://www.ex.sendai-c.ed.jp/taihaku/参照