第15回 新風を吹き込むには?


 これまでは連載といえども単発で原稿を書いてきましたが、今回は、若葉の香りに誘われて「産学連携に新風を」と題した第14回の続きとしてお読み下さい。
 まとめの部分に記した:産学連携の現場にいらっしゃる方々が、日々様々な局面で「産学連携の在り方」について感じ、考え、発言なさっているわけですが、その生の声を交換し、すり合わせるフェイス・トゥ・フェイスの場として産学官連携推進会議を活用するという提案をより具体的なものに落とし込んでみたいと思います。

肩書きを横において
 まずは頭の整理から始めることにいたしましょう。朝から晩まで、一年365日を振り返ると、人というものは、その時々、様々な立場に立ち、考え、判断し、行動することが強いられていることに気がつきます。フランス流に言いますと「帽子を取り替える(changer de casquette)」となりますが、帽子の数と、取り替える頻度が多くなると、何がエッセンシャルで、それに対して自分はどう考えるか、といった頭の交通整理をするゆとりが無くなっていきます。産学連携の世界も例外ではありません。多くの方は―例えば大学人の場合、教員、研究者、大学の対外窓口、企業の相手方、コンサルタント、アドバイザー等―、様々な帽子を使いこなしているわけで、「日本における産学連携は、過去10年間で何が変わり、今どの方向に向かって進んでいるのか?」、「自らが直面している問題は、固有の課題なのか、あるいは多くの人が共有するものなのか?」といった問題意識を持っていても、日常では、肩書きというフィルターを取り外して、包括的に考察するという機会がほとんど無いというのが現状です。

 そこで産学連携のエッセンシャルな部分に迫るにあたって、自らの反省も含めてですが、すべての帽子を箱にしまうことにします。要は、A大学のB担当、C社のD担当、E省のF担当、と言ったスタンスでは無く、「社会人」としての主観をベースにフランクかつ率直な議論を展開するという試みです。理想論を申しますと、「社会的最適」の追及となります。

何をベースに?
 日本の産学連携は、昨日今日に始まったことではなく、その歴史は古く(注1)、時と共に環境変化に対応しつつ進化してきたわけですが、90年代後半に入ると、TLO法の制定を機に、その状況はドラスティックに変化しました。Revolutionと呼んでも過言ではないでしょう。そこで注目すべきは「この変革期に何が起こったのか?」という点です。過去8年を振り返ると、現在産学連携に携わっている方々の多くは、ライブで体験した様々なファクトを思い浮かべることでしょう。現場では、日々の体験の積み重ねからラーニング・バイ・ドゥーイングといった形で産学連携に関わる新たなプロフェッションが確立されつつあります。これらの「個」の動きが集まったとき、日本全体にどのような流れが生み出されていくのか、という疑問が出発点となります。

 産学連携という被写体をいろいろな角度から撮るという試み、所謂「実証研究」がいくつか存在しますが、その中から5つほど紹介させていただきます。

1.「制度変革期における産学連携に関する実証研究」(馬場靖憲)
2.「産学技術移転の現状」(渡部俊也)
3.「産学連携におけるハイテクベンチャーの重要性」(元橋一之)
4.「米国の産学連携活動」(西尾好司)
5.「国立大学の産学連携と公的研究活動等の産業への寄与」(桑原輝隆)

 馬場&矢崎レポートは、制度化された産学連携が国立大学の研究者の行動にどのような影響を与えたか、という点をアンケート調査から浮き彫りにします。渡部レポートは、アンケート調査と基礎データを基にTLOの実態を把握します。元橋レポート(RIETI)は、経済産業研究所の調査研究のデータを基に、イノベーションの原動力として期待されるハイテクベンチャー企業の実態を分析します。西尾レポートは、日本の現状を客観的に見るための手段として、アメリカに目をむけ、日々進化を続ける産学連携を、産学共同センター、カリフォルニア大学の取り組み(BWRCとCITRIS)、インテル・ラブレットのスナップショットを通じて捉えることにします。桑原レポートは科学技術政策研究所(NISTEP)がこれまでに行った調査研究の結果を基に、国立大学と民間企業の研究を介した連携、科学技術の経済・社会的インパクト、民間企業の特許取得における公的部門の役割を考察します。

メニューが出揃ったところで・・・
 フレーバーをちょっぴり味わっていただいたわけですが、皆様の食欲をそそるに至りましたでしょうか?
 うまく私の作戦にのっていただけた方は、6月10日、京都で開催される第5回産学官連携推進会議(注2)の分科会V「データから見る産学官連携の現状と課題」にお立ち寄り下さい。ディスカッションにも時間をたっぷり取る予定です。皆様にお願いするのは、上記の料理に味付けをしていただくことと、産学連携の次のステップのアイデアを出していただくことです。プレゼンテーションはあくまでも議論の呼び水ですので、帽子をクロークに預けて、ホットなディスカッションにご参加ください。もちろんこの分科会をネットワーキングの場として活用することも忘れずに。

 最後に蛇足になりますが、産学連携講座第7回『「産学官連携推進会議」の今後の方向性は?』(注3)の斜め読みをお願いします。これは第3回産学連携推進会議で私が感じたこと、会議に対する提言を書いたものです。塩澤さんのメッセージ(注4)にもあるように、第5回会議には「新しい風を吹かせたい」という心意気が根底に存在し、その一つの表れがこの新たに加わった分科会Vであることに時の流れを感じると共に、まだまだこれから仕掛けることは山ほどあると実感する次第です!
(注1)東北大学、理化学研究所の歴史参照。
(注2)http://www.congre.co.jp/sangakukan/参照。
(注3)http://dndi.jp/07-harayama/hara_7.php参照。
(注4)http://dndi.jp/shutyu/shutyu1.html参照。