第10回 企業が仕掛けるインターンシップ



 新年を迎え、「さて、今年は何にチャレンジする?」と自問自答した結果、出てきた答えは「人を育てる」でした。もちろんこのプロセスの中で自分自身も育てられるわけですが。教育機関たる大学の教員が人材育成に励むのは当たり前、という声が聞こえてきますが、大学の現場では、この基本的な姿勢がおざなりにされることが多々あります。自戒も含めた決意とご理解ください。 さてそこで人材育成は教育機関の独壇場かというと話しになりますが、そうではない、というのが今回の論点です。具体的には、仙台地域でインターンシップを自ら企画・実践している企業人グループの体験談を紹介し、「産学連携」をベースとする人材育成の一つのあり方を皆様と考えてみたいと思います。

●なぜ企業がインターンシップを仕掛けたか?


 既存のインターンシップとは在学中に2週間程度企業体験を行うというものですが、時間的な制約、企業側の教育に対する認識の濃淡、学校教育との補完性の欠如、等の理由から「人を育てる」という役割を十分に担っているとは言い切れないのが現状です。今回登場するハリウコミュニケーションズ代表取締役の針生さんは、何度も高専・大学からインターンシップの学生を受け入れてきましたが、徐々に「どうも違うな!」という問題意識を持つようになったそうです。
 昨今、産学連携施策の一つとしてインターンシップが奨励されるようになりましたが、ここでも、ツールである「インターンシップ」制度の導入が前面に出てしまい、本来の目的である「学生を育てる」という視点が影を潜めてしまったようです。であれば、同じような問題意識を持つ仲間同士で本来あるべきインターンシップを模索しようではないか、というのが針生さんの発想です。

 この動きを理解するには、社会における企業の位置づけを再考する必要があります。経済学を学んだ方は、導入の部分に登場する「企業の目的は利潤の最大化」という新古典派の説を思い浮かべることでしょう。経済活動をモデル化する際には非常に有益な考え方ですが、現実はというと、企業は社会とのインターアクションの中で、自らの価値を高めていくわけで、そこでは、利潤のみならず、間接的に発生するリターンも計算に入れた上で企業活動を決定していくことになります。
 「針生&仲間たち」(注1)は企業活動の傍ら社会奉仕としてインターンシップに手を染めたのではなく、人材育成による地域への波及効果をも視野に入れたSocial Entrepreneurとしての意思決定だったそうです

●そのプログラムとは?


 今回のインターンシップは、「拓け“e−みやぎ”総合Fair 2004」(注2)を柱に展開されました。地元のIT企業・団体の紹介とコラボレーションを促進することを目的として、県内IT系団体主催、経済産業省共催で2004年10月に展示会とフォーラムが催されましたが、そのイベントの企画の段階から学生たちが参画し、イベントのクロージングまでを、プロフェッショナルと共に汗水流して体験するというプログラムです。
 このアイデアがどのようにして生まれたのかということになりますが、“e−みやぎ”の準備委員会で基本的なコンセプトをつめていた時、「IT業界では優秀な人材が欲しいが、地元の企業は目立たないので学生にPRしたい」との意見が出され、学校・学生を引き込む手段としてインターンシップの案を提案したそうです。専門家の指導下で学生達がハンドリングできそうな“e−みやぎ”の仕事の絞込みが行なわれ、4つのグループ(注3)が形成されました。

 そこで問題となったのは、学生集めです。地域の大学・専門学校との交渉となりますが、大学の窓口を見つけること、事務方の理解を得ることが難しかったそうです。反応が早かったのは専門学校ですが、学生達はすでに多種多様なイベントに引っ張りだこという状況で、ここでも学生集めは難航したようです。
 大学と企業の関係は互いに「様子見」というところがあり、いっしょにプロジェクトを走らせながら信頼関係を築いていくという作業が必要なようです。産学連携は技術移転、共同研究というレベルの話だけではなく、ソフト面での連携もこれからは開拓していく余地があるのではないでしょうか。

●学生が吸収したこと?


 私がくどくどお話しするより、当事者である学生達の生の声(注4)をお聞きください。これは当初からインターンシップ・プログラムの中に組み込まれていた「プロジェクト型インターンシップ成果発表会」の映像です。
ポイントをいくつか挙げるとすれば:
  • プロの世界の厳しさを肌で感じた
  • 締め切りのプレッシャーが身にしみた
  • 失敗から学ぶことを覚えた
  • チームを引っ張っていくことの難しさを体験した
  • 下準備の大切さとともに臨機応変に現場の要求に対応することの難しさを実感した
  • 自らが担当した映像・パンフレット・サイン・ウェッブページを納期までに仕上げることができた時の充実感は忘れられない
といったところでしょうか。
 私自身、2回ほど彼らとディスカッションしましたが、インターンシップを修了した学生達の目は輝いており、充実感に満ち溢れていました。このインターンシップを通じで確実に彼らは成長したようです。

●企業が得たこと?


 インターンシップとは学生が学ぶ場であるとともに、受け入れる企業に対しても何らかのインパクトを与えるものです。では、今回のインターンシップ・プログラムを通して、「針生&仲間たち」は何を得たのでしょうか。
 学校とは異なる視点から「人を育てる」ことが可能であることを実感したそうです。それは企業のみが提供できる環境(例えばクライアントの存在、契約ベースで成果が追及されるプロジェクトの遂行)にカギがあります。教育面で学校と補完的に機能しうるわけで、新たなビジネスの展開につながるのではないか、と彼らは考えています。
 この企画が成功した背景として「針生&仲間たち」の教育に対する真剣な姿勢、コミットメント、チームワークがあることは確かですが、受け皿となった企業の社員のバックアップが不可欠なものでした。彼らはすでにSocial Entrepreneurshipを社風として共有していたのでしょう。また、仙台市にはメディアテーク(注5)というインフラが整っており、学生たちは公共の施設で機器の貸し出しを受けながら、作業することができたことも特筆に価します。

 皆様からインターンシップのアイデアを募集します!


(注1)メンバーはハリウコミュニケーションズ株式会社、株式会社アドックス、株式会社エクシオン、協同組合みやぎマルチメディア・マジックの4社です。
(注2)http://misa.or.jp/e-miyagi/参照。
(注3)映像系グループ(出展企業のPR映像、イベント中の取材・記録)、WEB系グループ(イベントのPRサイトの制作・運営)、サイン系グループ(展示デザイン、会場案内サインのデザイン・制作)、印刷デザイン系グループ(配布パンフレットのデザイン・制作)。http://misa.or.jp/e-miyagi/intern/index.htm参照。
(注4)http://misa.or.jp/e-miyagi/seika/index.htm/参照
(注5)http://www.smt.city.sendai.jp/参照 。