第2回 大学知財本部知財マネジャーとの会話



 企業の知財本部員は会社に居るときには、しっかりとした知財戦略をたてて、自社製品のために、防衛と攻撃に権利活用をしてきました。ある元企業知財本部員が関与して他企業から得た、特許料20年間で約2,500億円、支払った方は約100億円と聞きました。出願した特許の実施率は約30%、また何らかで、金になったものが全体の3%あるとのことです。知財本部としての仕事には、特許及びその周辺を固めること、又相手のものをつぶすこともあるそうです。こんなにいろいろ経験を積んだが、大学の知財本部に来ても、なかなかその経験を生かせていないようです。

 このようなキったハったの世界の企業知財本部員が大学知財本部に採用されて、教員にたいし知財の啓蒙と特許に関する基礎的な手ほどきを始めました。

 最初びっくりしたのは、特許に関するお話しをしますからと、しかるべきルートから学内に呼びかけても参加者は少ない、会社ではこういう研修会があると部、課からアナウンスがあればよほどのことがない限り全員参加なんですがねとのこと。

 企業の常識は大学の非常識の一例。これがというものはほとんど論文に発表してあったり、学内研究会で発表済みだったりします。大学の先生にものを教えたり、レポートを提出させことは至難の業です。

 しかしながら、ほんの一握りですが、特許について真剣に問い合わせ、わざわざ相談にくる教員もいるそうです。そして、理解も早く次の機会を、と考えるようになったと、そういうときには、知財本部員はよろこんでました。元々自分の研究成果に関することですから、もっと熱心になってもいいと思いますが。

 大体、大学には知財戦略はありません、では、研究戦略、教育戦略は?

 大学では製品を作らないし、作れません。よって防衛も攻撃もない。カウンターを打つ必要もない。企業知財本部員にはなんか物足りなく感じているようです。オーバーグオリティの人間が採用されたりします。

 日本の知財大企業では年間約4〜500億円の収入、IBMは2004年には1,400億円とか。米国の全大学でもこの20年間で特許による収入は1,000億円だそうだ。そのうち3/4がライフサイエンス関連で、全体の80%は4,5件の特許とのこと。日本では2003年度全国立大学では約4億2,700万円ですか、それの96%は赤崎名大名誉教授の成果(青色発光ダイオード)とか。

 まあ、大学が特許で得る金額は企業に比べると微々たるものですが。それを基にて、またそれから派生して大きく育つものを期待すべきと思います。大学発知的財産は製品化を前提にしていないので、周辺特許について大学研究者はほとんど考えてはいません。経験有る大学の知財本部員がアドバイスするか、企業との共同研究を進めていく上で周辺を固めていくことになります。

 ところで企業にて経験有る知財部員は大学にどのくらいいるのでしょうか。企業内にいたときには年収1,500万円以上と思いますが。大学の知財本部員にはそんなに支払えないでしょう。法人化されたとはいえ、大学が人材を採用するには依然として、一定枠から超えられないのではないでしょうか。非常勤職員の時間給はこれこれで、年間これです、とか。そうすると前にだした、1,500万円の半分以下がいいところでしょうか。今の大学の予算内でということだと、やはり、リタイヤした方か若い方しか雇えないでしょう。

 しかもこれでは地方に行ってまでという人は少ないのが現状でしょう。元々知財関係者、弁理士の方は大都市に集中し、地方では仕事が少ないのでほとんどいないところもあるようです。しかし各地の大学で知財経験者や弁理士を必要としています。

 このように大学ではまだまだ人材を得ようとしたときに障碍が多いですね。企業の知財本部の人はやれ防衛だ、攻撃だと言いますが自社製品のためにという錦の御旗があります。自社製品には必ず顧客がいるわけで、顧客満足度をあげなくては企業そのものの存続が危ぶまれてきます。自社製品というものがない大学では、元々顧客に対するサービスとか顧客満足という考えがほとんどありません。

 自分たちの立場を守るとか権利を主張するのはいいですが、ネゴシエーションのない世界はありません。知財本部が産学連携を推進するどころか、企業から見るとかつての大学よりもっと近づきにくくなった。という声が聞こえてきます。

 契約とはそれぞれ相手、時、場所、金額など、お互いの主張をよく検討し、ネゴシエーションして締結するものと思います。一つのもので何でもすまそうと思うと、無理が有ると思いますが。企業からはとても奇異に見られているようです。知的財産戦略もそうですが自社製品があるなしではなくて、顧客に関する部局責任者の意識の問題、またガバナンスにおける学長の指導力が問われています。