第1回 知的財産の問題



 産学官連携が叫ばれ出したのは、1998年TLO法が施行され大学の研究成果・知的財産を産業界へ技術移転するための機関:TLOが設立され、産学間の人事交流における規制緩和が行われるようになった以降でしょうか。

 華やかにスタートしたTLOでした、2005年3月現在39の機関が設立されました。そのうち株式会社、有限会社は22機関です。経営的にはほとんどの機関が苦労しています。多くのTLOが大学の知的財産のライセンスをメイン業務としています。

 大学の知的財産と企業の商品化には大きなギャップがあります。特に大学発の特許は特定技術分野の狭い核となる特許ですから、これをライセンスすることは簡単ではなく、多くの困難にぶつかります。米国においてはバイオ、ライフサイエンス以外の分野での特許ライセンスは非常に難しく、大学内でもTLOが特許化することは少ない状況です。

 大学発の特許をライセンスすることが難しいのは、大学研究者が商品化や新規事業のために研究成果を特許化するのでなく、あくまで研究目的で論文にすることが第一だからなのです。大学は新商品開発を主業務とするところではありません、商品開発は企業が主導権をとってやる仕事です。大学の使命は教育と研究です。バイオやライフサイエンスの特許がいいとはいっても、既存の企業にライセンスすることはこれまた難しいことです。

 しかし大学発特許を活用した、大学発ベンチャーでIPOを果たした企業は2004年9月現在7社あり、いずれもバイオ、創薬関連です。そして、2003年7月文部科学省の「大学知的財産本部整備事業」がはじまりました。これは、法人化後の特許の機関帰属への移行をふまえて、大学等における知財の創出・取得・管理・活用を戦略的に実施するため・・を目的とします。全国で34機関が採択されました。採択されていないところも法人化後には独自で知財本部を設置しだしました。

 TLOとの棲み分けが十分ではないところが存在しています。2004年4月から国立大学は国立大学法人となりました、それ以前の大学発特許について、発明者は大学研究者ですが、出願人は85〜90%が奨学寄付金の提供企業です。(1982年〜2004年3月まで、ほとんど大学研究者の特許は個人帰属でした。)しかも特許戦略を十分検討したとは言い難いものが多く、活用されていないものが大半です。大学に特許が眠っていると言われましたが、実際は企業内で大学発特許が十分活用されていない状況です。

 しかしながら、法人化後は大学内に特許は共願も含めて、蓄積されつつあります。我が国における産学連携の資金ルートはご存じのように共同研究、受託研究、奨学寄付金の三つのチャネルがありますが、現在でも80%以上は奨学寄付金です。特に大企業に奨学寄付金が多いためにです。

 これまでは奨学寄付金の効果は学生の確保、特許取得に表れてきました。これは大学との共同研究の契約が企業にとっては内容を公表する、特に特許権が国との共有ということで実ビジネスには機動的には使えない事が多かったことも一因です。

 しかし、国立大学法人化され大学研究者の特許は原則大学法人に帰属することになりました。共同研究における特許の共同出願の際、大学と企業の間にコンフリクトが生じています。もともと共同研究における問題点として、大学側は企業との研究成果を普及させたい、公表したい、論文として発表したい希望が強い。企業は企業秘密を発表されたくない、研究成果をコンペティターに知られたくないし、使わせたくない。

 そして、特許に関して大学側は特許を実施しないので、不実施補償がほしいということになりました。共有権利の取り扱いについて、文部科学省提示の雛形には、(共有権利者の実施)不実施料必要。とあります。多くの大学がこれに追随しています。

 一方、不実施補償の取り扱いについて、日本知的財産協会の提案には、共有特許の第三者許諾を可能とする場合は共有企業からの大学への支払いは「なし」とする。・・・「不実施補償」の呼び方は適当でないので、「独占実施補償」といった呼び方とする。企業側はこの立場をとっているところが多い、特に大手の上場企業です。

 双方拳を挙げた状態で、企業と大学間の共同研究自体が進めなくなっているケースが発生しています。企業の知財本部と大学の知財本部の交渉です。大学知財本部員の多くは企業または弁理士出身です。

企業側は共同研究費を支払っているし、本来的に自己の共有特許の自己実施は自由である。との立場をとっています。通常企業が開発設計を外注先に委託した場合には、人件費を含めたしかるべき開発費を支払い、多くの契約では得られた特許は発注者が最優先とされるでしょう。

 しかしながら、企業は大学との共同研究にしかるべき費用を支払っているのでしょうか。企業は大学の人件費はタダであるとの認識があるのではないですか。また大学研究者にはあまり多くの研究費を貰うと、責任が生ずるので適当な金額でいい。という方々も沢山います。

 産業界の電機業界、化学業界では対応に若干相違があります。化学業界の方は柔軟性があります。知財本部が未整備の中小企業では、不実施補償についてよく理解できていない企業が多いです。

 大学の発明、特許は不確かなものであるという認識に立って、共同研究前ではなくて、発明が生じた時点で話し合いましょう。

と電気通信大学知財本部では提案しようと考えています。

 知的財産本部が大学内に出来て2年目になりました。その活動状況は、対学内、TLOそして対企業には。次回はこの問題に触れたいと思います。