第5回 我が国の産における学の役割と変化

     (その2-未来編-)

 産における学の役割を考えるために、前回その1-歴史編-では、我が国の<産業発展における学の役割>について考えた。そして、米国による開国(1954)、日露戦争勝利(1905)、太平洋戦争敗北と復興(1950)が、50年周期のコンドラチェフ波そのものであり、その周期における産業技術と学の役割を明らかにした。今回、その2-未来編-では、21世紀の技術イノベーション戦略の主役として、国内大学のミッションについて考えたい。

 前回までの過去150年間にわたる我が国産業発展を振り返ると、2000年代における新産業創出に連なる技術イノベーションの担い手は、次の3つにシフトすると予測される。すなわち、(1)大手中堅企業の技術者スピンオフ・社内ベンチャーの拡大、(2)国内大学からの研究開発成果の移転と大学発ベンチャーの隆盛、(3)女性外国人を含めた技術系人材の大幅登用進展、である。

 (1)の実現加速については、優れた技術ノウハウを蓄積済みの大手中堅企業へのファイナンスとマーケティング支援と総合的なマネジメント人材の育成が欠かせない。また、(2)については、大学知的財産本部及びTLOにおいて大学の研究成果を素早く産業化する試み、すなわち<大学発知財の商業化>が重要だ。最後に、(3)については、優秀な女性の高度教育トレーニングと、こうした女性研究者が子供を産み育てながらも博士号水準の研究を維持できる大学・企業研究所の学内社内託児所などの環境整備、および外国人研究者のみならず優秀な留学生国内大学院卒業者への永住権付与のためのグリーンカード制導入が望まれる。

 これらの予測があたるとすれば、我が国産業界における国内大学のポジションは急速に向上するであろう。なぜならば、(1)の経営人材を再教育するべき機関は<国内MBA>を意味し、(2)もMBAやロースクールの卒業生が大いに貢献すべき分野である。(3)にいたっては、理系の優秀な女性研究者を大いに育て社会に輩出する機関は<国内大学>をおいて他に存在しないからだ。

 他方、社会の公器として大学は、常に<次世代の有為なる人材育成>および<研究成果の公開>が求められている。しかしながら、短兵急な産学官連携は、以前にも増して大学における研究志向と論文至上主義を蔓延させ、教育機能を悪化させかねない。こうした問題を不問にしながら、21世紀の新産業を支えるイノベーション拠点を国内大学に同時に求めるのはあまりにも無策だ。

 事態の解決は、国家予算に代表される国内資源の割り当て、および国内企業の大学との付き合い方に帰結する。国庫負担は別として、我が国の産業界が海外大学に出している研究費と国内大学へのそれを比較すると、件数はともかく一件当たりの金額で国内は海外にくらべ0が一つ又は二つ足りない。どうして、自国の競争力の源泉にして技術系人材の育成の場である国内大学に対してこのようなことが生ずるのであろうか? 本当に国内大学の競争力は海外大学に比べて低いのだろうか? この問題を次回のテーマとしたい。