第2回 地域貢献



 前回は大学発ベンチャーの視点から、その地域貢献についても論じた。今回は、大学そのものの視点から地域貢献について一考したい。2000年代に入り我が国の総人口は減少に転じた。我が国総人口が、1872年(明5)3400万人、1905年(明38)日露戦争時で4600万人、1945年(昭20)太平洋戦争終結時の本土人口が7200万人であったのだから、今日の1億2000万人が毎年1%減っても問題はない。だが、15歳未満人口が65歳以上人口を下回り、後者が加速度的に増加しているから、日本全体の学校収容規模は過剰化している。それでも、初等・中等教育には活路はある。一流先進国で学級一クラス40名を超えている国は日本くらいで他国は25‐30名程度だから、文部科学省の基準改定と初等・中等教育支出増を覚悟すれば少子化対応は可能だからだ。

 ところが、現在600を超え700校(内国立大学法人は90弱)に達する我が国の大学は、すでに全体の1/4校以上において定員割れの学部を抱えているにもかかわらず、入学定員はさらに増加している。一般的な私立大学の場合、総収入の9割近くを入学検定料や入学金を含めた学費に依存しているため、18歳受験生の減少は大学経営を直撃する。けれども、大学は一般民間企業と同様のリストラに全く手をつけられずにいる。18年前の出生人口をみると、2007年以降の大学入学予定者が急激に減少することは明白であり、数年以内に大学倒産が始まることは避けがたい。

 こうした事態に直面して、これからの大学が為すべき課題は以下の3点に集約されるだろう、と著者は考えている。第一に、学内では、他大学との競争力に欠ける学部・専攻を整理統合し、強い学部・専攻をより強化する方向に進まざるを得ない、いわゆる<リストラ型>だ。こうして、大学の入学者定員を減少させ定員割れを回避しながら、強い学部・専攻の教員と学生の質を向上させる。第二に、人口と所得の増加が著しいアジア諸国の留学生を、一般の日本人学生と同様に迎え入れるため学内の教育言語を英語へと切り替える<国際型>。そのためには、米国同様に教員の1/4程度を外国人化せざるを得ない。第三に、卒業学生の雇用先となる企業を大学キャンパス内外に誘致もしくは自ら創出するスタンフォード大に見られる<地域雇用創出型>。これにより、地域の経済発展と学生獲得に好循環を大学イニシアティブのもとで形成する。

 以上の解決策のうち学内抵抗が最も少ない方法は、第三の<地域雇用創出型>であろう。なぜならば、現在の教員や学部構成を劇的にリストラすることなく、少数の教員や専攻の情熱と奮闘によって大学全体が救われるからである。一見、この方法は不公正でフリーライダー(ただ乗り)を助長しそうだが、学問の多様性と学部教養教育の重要性を考えると大学における最大多数の最大幸福をもたらす妥当な方法だ。それでも、プロサッカーやプロ野球が一流選手を高額で獲得するのと同様に、地域の雇用創出に直接貢献できる一流の大学教員や民間人を大学はヘッドスカウトする必要があるだろう。その結果、優れた教員を確保できない大学や学部の淘汰は自然に進む。結局、神の見えざる手が機能し始める。

 こうした事態を冷静に観察すると、21世紀に発展する大学のキーワードは、「雇用創出が可能な先端テクノロジーと大学発ベンチャー」「良質丁寧な学部教育と実践的かつ先端的な大学院教育」「アジアからの留学生と社会人大学院の大幅増」となろう。地域における雇用創出と人材育成の要として大学への期待は高まる一方だが、それを左右するのは熱意溢れる優れた大学教員の存在にあり、真に機能させる力こそ<大学経営>といえる。