第6回 大学発ベンチャーの経済効果



 産学連携が経済活動に与える影響力は大きいものがあります。 1980年代、米国の低迷した経済を救ったのは、正に各地の産学連携拠点がその役割を担いましたし、産業界のイノベーションはこれを中心に実現されてきました。日本でも「失われた10年」を解決する方法として期待され、大学発ベンチャー1000社構想はそのような環境の中から生まれてきました。

 今回は、大学発ベンチャー上場12社の経済効果について考えてみたいと思います。始めに経済効果を計る項目を考えてみます。国の経済への効果を考えるときに一般的には「雇用・設備投資・個人消費」があります。ここではそれに加えて国への納税の貢献度(法人税・事業税)も見てみたいと思います。

1 従業員数:雇用効果を見る
2 人件費:従業員数×年収⇒個人消費(一部が消費税)となって経済活動に貢献する
3 売上高:日本の全体の経済活動に貢献する
4 経常利益:国の税収に貢献するもとになる

(表1)


 先ずは最近のベンチャーを代表する2つのケースについて見てみましょう。
【楽天の場合】
今話題の楽天は平成9年2月に会社を設立し、3年後の平成12年4月に店頭登録しました。当初4人で創めた事業は3年間で165人を雇用し32億円を売り上げる企業となりIPOしました。IPOをきっかけに、人的資源と事業資金を獲得し一気に事業を拡大し現在に至っています。旺盛な事業意欲が功を奏し、その後4年間で従業員は3.6倍ながら売上高で14倍、経常利益で16倍となり、約28億円を納税する企業へ成長しました。個人消費につながる人件費も、2千万円⇒9億円⇒34億円と拡大しています。まさにベンチャーのお手本といえる企業に成長いたしました。。

【テイクアンドギヴ・ニーズの場合】
 新しいビジネスモデルを開拓した、という意味では結婚式の文化をも変えてしまったテイクアンドギヴ・ニーズがあります。結婚披露宴の形態を旧来の「宴会型」ではなく欧米風の「ハウスウェディング型」として提案し、業界のイノベーションに成功しました。当初は、楽天ほどの派手さはなかったものの、IPO後の3年間は企業業績を倍々ゲームで拡大しています。しかも、M&Aの手法を駆使しながら本業にリンクさせる形で周辺ビジネスを拡大してきた楽天に対し、ウェディングビジネス一本で売上を3年で7.5倍にしてきたことは特筆に値します。更に納税額では楽天に迫る勢いがあります。

 以上ベンチャー2社の内容を検証してみました。規模の違いはあるものの、どちらの企業もIPOによるメリットを充分に享受し高い成長率を実現しています。  

(表2)


 それでは次に大学発ベンチャーを見てみましょう。表2はDNDサイトで大学発ベンチャー株価指数を公開しているトライエフインテリジェンス社が選出した上場12社です。大学発ベンチャーは業種的に研究開発型のバイオベンチャーが多いため、同列で議論することは難しいのですが、「経済効果」のテーマに絞って検証してみます。

 上場12社の内、100人以上雇用している企業は2社、個人消費に貢献する人件費で年間5億円以上を負担しているのは3社となります。経常利益ベース1億円以上の企業が3社、それぞれ2億、8億、9億円となっています。3社の納税額合計は8億0584万円となります。それぞれの数字を見ていくと、個別でも全体でも迫力に欠ける感じが致します。12社合計の数字を拾ってみると納税額は8億7700万円、雇用効果は719人、人件費合計は39億円余りとなります。「よちよち歩きの上場企業」と言われそうな企業もありそうです。この傾向には様々な理由が考えられます。有力な理由として次の事があります。大学発ベンチャーは事業化の目処を立てるまでに相当の資金を必要とするケースが多く、どうしてもその資金を様々な機関に頼ることになります。結果として不本意ながら早い段階でのIPOが行われる傾向があるのかも知れません。本DNDサイトで公表されている大学発ベンチャー株価指数が他の指数に対してアンダーパフォームしていることは前回ご報告しましたが投資家が積極的にならない理由の一つかもしれません。

 尤もIPOが一番早かったアンジェスMGにしても上場してから3年を経過したに過ぎません。今は、IPOをきっかけとして、獲得した経営資源をフルに活用している最中という企業が大半だと思われます。もう少しの期間、暖かい目で見守っていきたいと思います。そういう意味でも先人の大学発ベンチャーがビッグなサクセスストーリーを実現し次の大学発ベンチャー出現の牽引となることを期待したいと思います。

ご意見、ご感想をお寄せ下さい hirao-04xx@jp.nomura.com