第5回 証券取引所について−(3)



 経済産業省の発表によれば、大学発ベンチャーの上場企業は12社と言われています。ご承知の通り、DNDのサイトに株式公開のコーナーがあり、「大学発ベンチャー株価指数」が公表されています。株価指数は起点をどこに設定するかで見方が大きく変わってきますので一概には言えませんが、いずれにしてもグラフのトレンドからは芳しい結果は見えてきません。2002年9月末を100としてスタートし、同時に東証株価指数であるTOPIXとジャスダック指数とも比較しています。TOPIXは、なだらかに約30パーセント以上上昇しています。ジャスダック指数は、当時から2倍以上になっています。一方、大学発ベンチャー株価指数はスタートから4ヵ月後に160まで上昇を見せましたが、長期の下降トレンドに入り、現在は当初から約20パーセント下落し80前後となっています。大学発ベンチャー株価指数はこれら二つの指数に対して大きくアンダーパフォーマンスしています。

 大学発ベンチャーの上場マーケットは、東証マザーズ10社、大阪ヘラクレス1社、名古屋セントレックス1社というように大半がマザーズに上場していますので、マザーズとの比較をしてみましょう。マザーズ指数は2003年9月12日に新設されていますので、同じ期間での比較はできません。2003年9月からの比較をしてみますと、大学発ベンチャー株価指数は、150から一旦170前後(2003年11月)まで上昇しその後は一貫して下降し現在80前後になっています。この2年間で約半分になっています。その間、マザーズ指数は、1000からスタートし、2004年6月に2.6(指数は2672.31)倍まで上昇し、本年8月末には約2倍(指数は2036.58)で終わっています。

 以上のことから、大学発ベンチャーの株価はどのマーケットの指数よりも低いパフォーマンスにしかなっていない事がわかります。株式市場は将来の期待を買うところでもあります。十分に分析をしなければ本当の理由は分かりませんし、上場12社全てがそうだとは言えませんが、マーケット(=投資家)は大学発ベンチャーの将来に期待していないとも言えます。こうした状況では今後5年間で100社のIPOを実現しようとしているときに出鼻を挫かれることにもなりかねません。これから出てくる企業と一緒になって大学発ベンチャーの信頼を市場で確保しなければいけません。

 第2回でご報告致したように、IPOの最大のメリットは、高い成長に不可欠な経営資源(ヒト・モノ・カネ)を比較的容易に獲得できる事にあります。マーケット(=投資家)は企業の高い成長率に期待して株式を求めることになります。大学発ベンチャー株価指数の低迷は、経営資源を有効に活用しきれていない事に対する、或いは成長性に期待を持てない投資家からのメッセージかも知れません。

 また、米国では、ビジネスモデルの確立とそれに対する事業計画の内容が評価されるのに対し、わが国では新規公開に際し、企業に一定の実績が求められます。日本市場での投資家は、どんなに素晴らしい計画であろうと具体的な数字が見えてこない事を嫌う傾向があります。更に研究開発型の企業(なかんずく大学発ベンチャー)には目前に迫っているデスバレーを乗り越えるために公開したのでは、と思われても仕方がないような企業も見られます。前回ご説明したように、新市場には「IIの部」という申請書類も求められず、比較的安易にIPOができる下地を作ってきた経緯もあります。粗製濫造と揶揄される所以です。

 新市場が創設されるまでは、東京証券取引所を補完する機能として店頭(ジャスダックの前身)市場がありました。発展途上にある新興企業の登竜門として数々の企業がデビューしてきました。歴史的にもジャスダックが日本経済の振興に大きな役割を果たしてきました。大学発ベンチャーは小さくなければいけないこともありませんし、危うい企業でなければいけないこともありません。繰り返しになりますが、新市場の粗製濫造に大学発ベンチャーが役割を担う必要はいささかもありません。大学発ベンチャーの、ジャスダックや東証二部でのデビューが待ち望まれます。尤もジャスダックや東証二部に上場するには、あの「IIの部」が必要となります。社歴も新しく、陣容も小さなベンチャーにはかなりの重荷にもなります。その意味で現実に即した「簡易型IIの部」の登場が期待されます。

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