第1回 企業とは何か



 尊敬している出口事務局長のご指名によりこのコーナーを担当することになりました。IPOについて話せ、と言われれば一日中でも時間は足りないくらいなのですが、多様な人達で支えられているDNDでの影響の大きさにいささか緊張しているところであります。企業活動を行う上で成長戦略(事業の拡大)を考えたときにIPOは重要な要素となります。加えて、研究開発型を中心とした大学発ベンチャーの事業化にIPOは有力なkey factor for successとなります。

 始めに、そもそも論のお話をさせていただいて基本的なところを押えていきたいと思います。今回は「企業とは何か」と次回「IPOについて」をご報告させていただきます。多少理屈っぽくなりますがご辛抱下さい。
 会社は社長の為にあるのでも従業員の為にあるのでもありません。

企業のスキャンダルとして
 「大腸菌入りの牛乳」・「輸入されている国産牛」・「タイヤが外れたり火を噴くかもしれないクルマ」は記憶に新しいところです。
 企業とは何なのでしょうか?心のこもっていない謝罪会見を見る度に彼らの罪の意識のなさに絶望すら感じることがあります。「尊敬する社長の為」とか「社員○万人と家族の為」に企業活動があるとしたらそれは間違いです。それで被害を受ける私たちは何と不幸なことでしょうか。

会社は誰のものか?そして、会社は誰のためにあるのか?
 「主権川下論」というのがあります。社会活動は誰のために機能しているか?−を考える時に「商品やサービスはそれを提供する人の為にあるのではなく、それを受ける人のためにある」という理論です。前にあげた事例はどこかでこの考え方が逆転してしまったのです。さらに「高い品質をリーズナブルな価格」で提供する事が競争に勝ち抜く条件となり、未来に向けて成長を期待できる企業(サービス提供者)として認められることになります。

 鉄鋼会社は自動車会社のために品質の高い鋼材を⇒自動車会社は宅配業者のために安全で快適な走行のできる車を⇒宅配業者は通販会社のためにスピーディーで確実に商品を届けるサービスを⇒通販会社は消費者のために品質の高い商品を安く提供する。これらが「主権川下論」の連鎖の一例です。常にサービスを受ける:川下のために社会活動が成り立っています。繰り返しになりますが、大学について考えてみると、大学は「学生に高品位の高等教育を実施する使命があり、教授を頂点とした職員一人一人が夫々の役割に応じて学生を満足させるに足るサービスを提供する」使命を担っているのです。
 全ての社会活動が、それぞれの立場で、サービスを受ける人の為に使命を負っているとも言えます。

次に「会社は誰のものか」について考えてみます。
 ここでいう会社とは、株式会社のことを指していますので、当然の事ながら「株主のもの」となります。株主は出資することによって、企業理念に賛同し、企業活動を通して社会に拘わっていくことを資金の面から支持することになります。賛同者が多ければ資金も豊富に集まり、事業規模も大きなものとなっていきます。出資者は結果として配当金を受け取ることになります。経営トップを始めとする全ての社員は最高のサービスを提供する使命を持った集団ということになります。サービスの提供者、享受する人、提供者を様々に支援する人、株主等全ての人たちをステークホルダー [stakeholder] と総称します。

 事業活動を行う者は、お客様の為に満足度の高い活動を行うことで企業価値が高まるのであって、企業価値を高めるためにお客様がいるのではないことを肝に銘じなければなりません。もちろん大学発ベンチャーも例外ではありません。

次回は「IPO」についてご報告いたします。
(このレポートは筆者の個人的見解であり、筆者が所属している野村證券(株)の見解ではありません)