第4回ベイエリアの学校教育

−二極分化と理系離れ−


●ベイエリアで一番の学校

 駐在員として、海外に暮らす場合に一番頭を悩ませるのは子供の教育ではないだろうか。特に、アメリカでは住む地域によって公立学校のレベルが大きく異なることが良く知られているだけに、学区選びは深刻である。

 では、ベイエリアで一番レベルの高い公立学校はどこだろうか。3月2日にカリフォルニア州教育局が発表した2003年の資料によると、小学校はクパチーノのファリア小学校、中学校はロスアルトスのイーガン中学校、高校はサラトガのサラトガ高校のようだ。この資料では、生徒の到達度テストの結果をAPIという1000点満点の指数で表しているのだが、ファリア小学校は996点、イーガン中学校は938点、サラトガ高校は911点という高得点である。

 この資料を見ていくと各学校毎に生徒の人種構成や親の最終学歴分布なども示されており、一般にアジア人および白人が多いほど、親の最終学歴が高いほどAPIは高い傾向がある。例えば、前述のファリア小学校では90%がアジア系の子供で、親の80%以上が大学院卒業となっている(一体どんな地域なんだ?)。

 もちろん、人種によって頭の良し悪しに差があるわけはないので、家庭の教育に対する姿勢や、教育に対して負担できるコストの差といった環境要因の差を示しているに違いない。しかし、これほど学区や学校によって学力レベルに差があるというのは、日本のような均質教育を目指している国からすると大きな驚きである。たまたま、または十分な資金力無いために良い学区に住めなかった子供たちは、教育環境も悪く、高収入を得る職に就くにはより大きな努力を要することになる。

●進む理系離れ

 一方、アメリカが世界に誇る大学教育の面でも興味深い指摘が見られる。3月24日のサンノゼ・マーキュリーニュースは、次のように報じている。

---コンピュータサイエンス履修を敬遠する米国の学生---
 ハイテク技術者の海外アウトソーシングの動きが加速するなか、米国の大学生はコンピュータ技術とエンジニアリングの履修に見切りをつけている。これらの学部の生徒数は減少しており、多くの教師は米国の将来の競争力への影響を警告している。
 コンピュータ関連学部の学生数は、ドットコムバブルが弾けた後でも2003年3月までは増加傾向にあったが、昨年の新入生は23%減少した。この減少の理由は明らかではないが、多くの教授はソフトウェア産業の海外アウトソーシングが原因だとみている。ビルゲイツ氏もこの問題に関心を寄せており、先月主要大学を訪れた際、学生らにコンピュータ関連の勉強を続けるよう訴えている。
 日本でも少し前に理系離れが懸念された。理系出身の技術屋が乾いた雑巾を絞るように新製品開発、生産合理化を進め、学生時代には遊んでいたとしか見えない文系出身者が取締役として高い給料を貰う。学生はそんな矛盾に敏感に反応したということだが、アメリカでも同様の動きが顕在化しているのだろうか。

 アメリカでは、あまり理系、文系という区別をしないとされ、多くの優秀な人材は工学の修士とMBAを持っている。しかし、会社の中のキャリアアップを見れば、マーケティングや事業開発などを担当してからCEOになることはあっても、研究や開発からCEOになることは少ない。良いところ、リサーチフェローかCTOであろう。

●アウトソーシングの影響

 特に昨今のように、専門知識を要するホワイトカラー業務を積極的にアウトソーシングし、アメリカ国内では経営管理を中心とした部門だけを残していく動きが続けば、国内で必要とされるのはMBAとロイヤーばかりということになる。しかも高給を取るのは彼らだということになれば、何が悲しくてコンピュータ科学など専攻するだろうか。敢えて、アウトサーシング先の低賃金エンジニアと競争するようなものなのだから。

 コンピュータ科学の次に何が来るのか。バイオテクノロジーかも知れないし、ナノテクノロジーかも知れない。しかし、懐妊期間の長い技術ほどリスクは高く、リターンは少ない。

 さて、クパチーノの小学生が大学生になったときに、何を専攻するのだろうか。大変に興味深い。私が彼らの親ならば、お金持ちになるためにビジネスを専攻しなさいと言うか、技術で身を立てたいなら母国に帰ることを勧めるだろう。