第10回 相次ぐ再生医療ベンチャーの撤退


 培養皮膚のビジネスを目指すJ-TEC(蒲郡市)、骨の再生医療ビジネスを目的とするオステオジェネシス(神戸市)は順調な滑り出しであった。私は両者の技術顧問を務める傍ら、新たな製品開発に取り組んでいた。よく質問を受けることに複数の再生医療ベンチャーの技術顧問をしていて、利益相反がおきないのか? 企業間のコンタミはどのように防ぐのか? などがある。当初このような懸念は私にもあったのだが、結果としては再生医療というのは非常に大きなマーケットが存在し、うまく領域をわければ決して競合関係にはならないことがわかった。
 私の中の切り分けとしては、
1)同じ組織を同時に複数の企業とビジネス化しない
2)それぞれの企業の市場が十分に大きい
3)可能ならば協力関係が結べる
といった原則を立てた。

 事実もっとも先行しているJ-TECはその後にできた名大関係の再生医療企業の手本となり、年2回おこなっている関連企業懇親会ではざっくばらんな情報交換が行われている。これもグループ企業をつくる意義のひとつだろう。
 現在名大関連の再生医療企業群は、
1)J-TEC(皮膚・軟骨)
2)オステオジェネシス(歯槽骨)
3)ニプロ(神経)
4)日立メディコ(歯、象牙質、培養装置)
5)TEI(バイオ関連ベンチャーファンド)
6)MEDIA(IT、スキャフォード加工)
に上っている。
 またこれら以外にも、細胞デリバリー、細胞バンク、細胞カテーテルの開発を目指す企業と共同研究をおこなっている。

 こうした企業との共同研究は明らかに教室の研究者にもポジチブな影響を与えている。2週に一回行われる合同カンファレンスには企業研究者も参加する(秘密保持契約の締結が前提)。ディスカッションは産業化、特許化の意識が色濃く反映するものになり、研究者に実用化という視点が自然に生まれる。

 こうした再生医療ビジネスは国の方針とも一致したものであり、マスコミの注目も集めた。まさに順風万帆かとおもわれた矢先に、2002年に米国の再生医療ベンチャーの老舗である、ORGANOGENESIS社とADVANCED TISSUE SCIENCE(ATS)社の破産のニュースが飛び込んできた。両企業とも苦戦を漏れ聞いていたのでやっぱりという感じであった。
 さらに追い討ちをかけるように国内で皮膚再生医療ビジネスを計画していたメニコンがこの分野のビジネスから全面撤退を宣言した。再生医療ベンチャーにとっては一時的に冬の時代が到来したかにみえた。しかし結果的にはこれらの企業の撤退は大きな教訓を残し、むしろ逆に再生医療ビジネスを成功させるためのヒントを与えたとも言えるのである。

 筆者の考えをここでまとめると、再生医療ビジネスの成功の条件とは以下のものである。
1)対象としている疾患の数が多いこと
2)技術がすでに完成しているか、もうすぐ完成する
3)代替医療がないこと
4)自費診療が可能であること
5)救命型ではなくQOL型の医療であること
 倒産あるいは撤退を決めた3社に共通するのは、患者数がさほど多くなく、皮膚の再生医療に過度のこだわりがあり、多くの代替治療法が存在し、自由診療のしにくい疾患を対象にしていた点が問題であった。
 手前味噌なことを言わせてもらえば筆者らが行っている歯科の再生医療は、意外にもこうした成功の条件を数多くそなえているのである。
 ともあれ米国での再生医療ベンチャーの倒産、メニコンの撤退は再生医療ビジネスの困難さを浮き彫りにし、関係者に戦線の再構築をせまった。安易な気持ちではこの分野のビジネスは成功しないことを知らしめたできごとであった。


▲2002年アメリカATS社視察




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