室蘭工業大学 応用化学科助手の藤井克彦氏が、現在
進めているベンチャー設立までの軌跡をリポートしま
す。本人自らがつづる、臨場感あふれる体験談です。

【Vol.15】

八十八箇所お礼参り?


平成15年12月某日

 徳島での実地性能評価が本日で終了。というわけで今日はお礼を言いに、そして厚かましくも、今後のご支援もお願いしに徳島入りしている。今徳島駅前の宿舎を出発しようとしているが、どうも出発が早過ぎないか?渋滞などで現場到着が遅れると先方に申し訳ないので安全を見て早く出発するのはわかるが、それでも朝7時出発は早過ぎないか?

 レンタカーに皆で乗り、工場のある工業団地に向けて出発。順調に国道を走り、これは相当早く着くんじゃないか、と思っていたとき、いきなり車が細い脇道に曲がって行った。『ちょっと、どこへ行くのさ』と思って2, 3分もしないうちに、とある寺院の前で停車した。そう、、、工場へのお礼の前に“もうひとつのお礼参り”をするというのである。早起きの理由、そして、バイオトリート取締役や手塚専務が朝から妙に元気だった理由は八十八箇所巡りであった。幸か不幸か(私にとっては不幸)、徳島駅から現場に行くまでの国道沿いに八十八箇所のうち数箇所が点在しており、長時間運転の休憩がてらお参りしていこうというのである。こうやって時々脇道に入ってはお参りをし(いや、お参りさせられ!)を繰り返しながら現場にむかったのだが、言われるがままにお参りしているのも少し悔しいので、せっかく海の綺麗な徳島に来たことだし、ということで途中の日用品店でポリタンクを買い、今後の研究用に海水を20Lほど汲ませてもらった。転んでもただでは起きないのである。

 そして、ちょうど良い頃合に工場に到着。工場長らが出迎えてくれた。夏から約半年間本当にお世話になりました。工場の方々は普段の業務に加えて装置の稼動具合にも気を配ってくださり、大変感謝です。これまで半年間動かしてきた試験装置にも“一生懸命動きました”というある種の風格が漂っているようにも見えた。しかし何とこの地は温暖なのだろうか。。。当初計画では耐寒試験も行おうと思っていたのだが(実際に気象情報を調べると冬は降雪もあり得るとのことで期待していたのだが)、今年は特に温暖なため、それができなかった。続きは真冬の室蘭に持って帰ってやる必要がある。

 さて工場を後にしようかとレンタカーのトランクを開けた時、ショックで凍りついた。な、な、なんと海水がポリタンクから漏れて加地社長と手塚専務のコートをびしょ濡れにしている!!加地社長のコートは明らかに高級品。手塚専務のもちょっぴり高級感あり。両方とも私の愛用するユニ●ロとは別世界の逸品である。『加地さん、手塚さん、大変申し訳ありません』謝る私を不思議に思った二人もトランクを見た瞬間しっかり凍り付いていた。結局お二人とも嫌な顔ひとつせず笑って許してくれたが、本当に、本当にすみませんでした。今度徳島に来る機会があったら心を入れ替えてしっかりお参りします。。。

種菌注入

 

平成16年1月某日

 謹賀新年、開けましておめでとうございます。今年も皆さんよろしくお願いいたします。今年は何としても、克服できずに残っている開発課題をクリアーし、事業化への目処をつけたいものです。今年もしっかりお世話になるつもりですので、覚悟してください。しかし今年は雪がほとんど降らない。全国的に暖冬らしいが、室蘭も、東京などに比べると当然室蘭の冬は北海道の冬なのだが、積雪量は少なく、少し溶けて霙混じりの雪道になっている。そして夜はしっかり寒い。こういう状態だから、少し溶けた積雪表面が夜の寒気で氷になる。私の宿舎の玄関前はスケート場になっている。今朝ものの見事に滑って鳩尾から転倒した。非常に痛く、しかも誰も周りにいなかったものだから『大丈夫ですか』の声もなく、心が寒い。。。冬はもう過ぎていったのだろうか。それともまだ通り過ぎてくれてはいないのだろうか。

1月某日

 今日から、残りの課題を克服するため、冬の室蘭で第3クールを開始する。恐らく排水処理の技術を開発する上で度々悩まされるのが、排水中の微生物と微小ゴミを核とする浮遊性懸濁粒子(SS)の問題であろう。昨年の性能評価では、装置内で大量に発生するこのSSが分解菌の活性を著しく低下させており、このSSの問題といかにしてうまく付き合うかを研究する必要がある。そこで今回は循環曝気ポンプを止めて強力なエアを吐出する空気噴射と特別仕様の水車を併用して循環曝気することとした。あと時期的にもちょうど良いのだが、低温排水でそれくらい処理能力が維持されるか、複数個連結することで処理速度を高められるか(=将来、ユーザーの排水規模に合わせて複数連結で処理能力を自在に設定できる)についても平行して検討する。今、装置を設置している楢崎工場内に来ているのだが、装置の貯水タンクから湯気が出ている。湯が入っているわけではない。水温25℃である。外気温があまりにも寒いため、25℃の常温水からも蒸気が出るのだ。冷え込んだ釧路湿原の映像で川面から湯気が立っているシーンがあるが、あれと同じである。第3クールいよいよスタート。


藤井 克彦氏の略歴

◇室蘭工業大学 応用化学科 助手
◇1971年生まれ 九州大学理学部 生物学科卒業
◇奈良先端科学技術大学院 バイオサイエンス研究科博士前期課程
◇東京水産大学大学院 水産学研究科博士後期課程終了
◇専門分野:微生物工学、環境バイオテクノロジー、有用微生物の探索
 電子メール:kfu@mmm.muroran-it.ac.jp
 ホームページ:http://www.mmm.muroran-it.ac.jp/~kfu/