室蘭工業大学 応用化学科助手の藤井克彦氏が、現在
進めているベンチャー設立までの軌跡をリポートしま
す。本人自らがつづる、臨場感あふれる体験談です。

【vol.11】

サムライ英語で米国学会デビュー!!

平成15年4月某日

 地域コンソの共同研究企業である楢崎製作所の担当者(清野事業開発室室長、陳課長)と開発装置について打ち合わせ。これまで研究室で得られた成果を基に、大規模スケールの『実用的』装置の設計を開始した。

倉敷紡績の徳島工場で実地試験を行う。写真は装置の基礎台

 

 『処理効率が良く、メンテにそれほど大きな手間がかからず、かつ合理的な価格帯の装置』の開発を目指す。コンソで得られる成果は特許となり得ることから今後装置に関する突っ込んだ内容はあまり読者の方々にはお伝えできないのが残念ではあるが何卒ご了承ください。

5月某日

 地域コンソの第一回研究開発委員会が開催された。管理法人の室蘭テクノセンター、私藤井(肩書は(有)バイオトリート研究員として)、清野・楢崎製作所事業開発室室長、陳・課長、菊池教授、アドバイザーとして小樽商大の李濟民教授、倉敷紡績の山本良平主席研究員、そして経済産業研究所dndの出口俊一事務局長に出席していただき、本当に売れる装置の開発と成功するためのベンチャー経営についてアドバイスを頂いていく予定である。

 初回は顔合わせ&開発計画の説明が主であるので早めに終わるかと予想していたが、出口事務局長、このお方が本当によく喋る!環境というキーワードに大変強い興味を日頃から持っておられる方なので喋りだしたら止まらない。。。

 予定時間をフルに使いきった第一回開発委員会となった。オブザーバーとして北海道経済産業局の佐藤勝弘・産業技術課長補佐と天池毅裕・バイオ産業技術係長が出席した。はじめはオブザーバー(直訳すると、観察する人)というので一体どんなことを観察されるのやらと内心ビクついていたが、研究計画が実用化にうまく結びつくよう助言をしてくれる役割とのことで安心した。

 『バイオトリートの配分予算をうまく使ってマーケティングリサーチをやってみたらどうでしょう』

 天池係長からのお言葉。研究開発委員会からゴーサインをもらい、本格的に開発に取り掛かることとなった。

5月某日

 研究開発における実地試験の場を提供してくれるクラボウさんと大阪および徳島工場にて打ち合わせ。徳島工場は阿南にある。某パック酒のcmの舞台となっているところである。ノニルフェノールは工業用洗剤npeoなどの合成原料として重宝されていた物質であり、欧米では2000年ごろを目処に使用自粛・規制が行われている。わが日本では行政サイドで大幅な対応の遅れがありまだ法規制はかかっていないが、大企業を中心に自主的な使用自粛が行われており、クラボウでもここ数年間は環境負荷の低い代替品を使っている。

 また、徳島工場ではオゾン処理装置が設置されておりノニルフェノールなどの環境汚染物質の完全処理が図られている。折角場所を提供してくれるのだからクラボウさんには迷惑はかけられない。試験装置の設置場所であるが、排水浄化槽の隣という素晴らしい立地条件を提供してくれた。

 その後電車まで時間が少しあるので工場長に場内を案内していただいた。紡績会社の染色加工工場を初めて見学したが、大変面白い。私の抱いていたイメージとは違い、多くの工程がコンピューター制御されており、その光景は圧巻である。

ホワイトハウスをバックに一枚。アメリカは何につけてもデカイ


5月某日

 本日よりワシントンdcで開催される米国微生物学会(asm)に出席するためアメリカに向かう。これまでに研究室で得られた成果を海外の研究者の目に直に披露する絶好の機会である。そういう気持ちで初めての渡米に挑んだが、エコノミークラスの格安航空券で約15時間かけての旅程はさすがにキツイ。その日はホテルに到着後はバタンキューであった。

 翌日、asmの開催会場であるワシントンコンベンションセンターを下見。さすがアメリカ、世界中から研究者が集まってくるだけあって、日本の学会とは比較できないほど規模が大きく、参加者も多い。迷子になりかけてインフォメーションセンターの世話になりっぱなしである。悔しいけれど、日本がなかなかアメリカを抜けない理由が少しわかったような気がした。個々の研究者の比較だとそれほど違いは無いと思うのだが、学会対学会あるいは国対国の比較となるとあらゆる意味で器の大きさが違うのである。

 さらに翌日、nih(national institute of health)で博士研究員をしている大学院時代の同期が発表をするとのことで彼の発表後に会場で面会し、アメリカの研究環境について話を聞いた。雑用も一切無く実験に専念できる彼の環境が少し羨ましかった。とは言っても大学の助手は研究"教育"職であるから実験以外の仕事が入るのは当たり前であるので羨んでも仕方ないのであるが。。。

 しかしベンチャーを設立してからというもの、いろいろあって、試験管を握りながら過ごせる『純粋な実験時間』が減ってしまったのは残念である。もともと『自分の研究成果を社会に還元したい』という気持ちから起業を思い立ち、ビジネス素人の私ではなく経営を熟知している企業家の方々に経営面の支援をお願いしてきたのだが、それでも書類書きや講演(とその準備)に多くの時間を割かれているのが現状である。

 もしも経営まで自分でやっていたら間違いなく研究者としては死んでいたと思う。米国の大学では大学内のリエゾンオフィスがベンチャー経営についてもかなりの支援をしてくれるらしいが、日本ではそのような支援制度を作ることは、公務員削減が叫ばれている今日では無理な話なのであろうか。。。

 そしてさらに次の日は私の発表。ベンチャー、そして地域コンソのネタである環境ホルモン分解菌の成果を発表した。昨日の友人ほどではないが、大学関係者と企業の研究者など十数人の参加者から質問を受けた。結構興味を持ってくれているようで嬉しかった。

 私は流暢な英語を話せるわけではないが、質問の意味がわからなかったら『パードンミー』と聞き返し、質問に応答する時は『これがサムライの英語じゃ、わかれ!』と言わんばかりの気合で乗り切った。わかりにくい英語で本当に申し訳ございませんでした。我慢強く私と討論してくださった海外研究者の皆様に感謝いたします。


藤井 克彦氏の略歴

◇室蘭工業大学 応用化学科 助手
◇1971年生まれ 九州大学理学部 生物学科卒業
◇奈良先端科学技術大学院 バイオサイエンス研究科博士前期課程
◇東京水産大学大学院 水産学研究科博士後期課程終了
◇専門分野:微生物工学、環境バイオテクノロジー、有用微生物の探索
 電子メール:kfu@mmm.muroran-it.ac.jp
 ホームページ:http://www.mmm.muroran-it.ac.jp/~kfu/