室蘭工業大学 応用化学科助手の藤井克彦氏が、現在
進めているベンチャー設立までの軌跡をリポートしま
す。本人自らがつづる、臨場感あふれる体験談です。

【vol.5】

大ショック! まさかの不採択

平成14年8月某日


 小樽商科大学cbcの某先生(本人の希望により名前は伏せる)から連絡をもらった。何でも、来年(平成15年)からの施行を目標に、会社設立の際の資本金準備を5年間猶予する法案が国会でもうすぐ通過予定なのだそうだ。

研究にいそしむなか、起業への準備活動に奔走する藤井氏
 例えば、有限会社だと今のところは300万円の資本金を準備してようやく設立できるのだが、その300万円を5年間待ってあげるから一日も早く起業しなさい、という法案らしい。この不況の中、なかなかベンチャーの数が増えないのでこのような法案を作るのだそうだ。そこで1つ質問。

 『何で今までそうしなかったの?』

 まあ一国民としてこのような素朴な疑問が頭に浮かんだわけではあるが、ともかくこれは嬉しい!っしゃー!

 小泉首相ありがとう!

 最大の課題と思われる資本金の問題はこれでクリアー。あとは開発補助金をどうやって稼ぐか、社長はどうするか、事務所はどこに設置するか、社員どうやって雇うか、まだ問題はいろいろある。

 開発補助金は6月頃に文部科学省が大学等発ベンチャー支援制度なるものを公募開始していたのでそれに応募した。大学ベンチャーの設立自体を目的とした補助金制度では第一号のものではないだろうか?その結果は9月頃でるのだが、それが採用されれば良いが。。。

 次の問題は社長。実際に経営や会社を経験したことのある人に社長をやってもらいたい。何故ならビジネスについて無知な私がやるとうまく行きそうな会社さえも潰れる危険性があるからである。

 複数の情報源から聞いた限りでは休眠状態に入っている(=実質的に商売していない)、あるいはどんどん資本金を食いつぶして倒産までのカウントダウンに入っている大学ベンチャーが少なくないらしい。経営のプロが大学ベンチャーを経営すれば大成功して日本再生に貢献できる可能性はある(100%とは言わない)が、成功の見込みのある大学ベンチャーの経営をビジネス経験のない大学教官がやるのは危険だと思う。ビジネスについてよく分かっている教官がやるのなら大丈夫だと思うが。

 あと、事務所の問題。大学ベンチャーと言えど営利企業なので国立大学の中(=研究室内)には事務所を構えることはできないらしい。研究成果の社会還元という大学の持つ重要な使命を達成するためのベンチャーなのだから、特例を認めて学内に置けるようにすれば良いのに、国立は本当に融通が利かないと思う。どこかに事務所のための部屋を借りなければならない。部屋を借りるとなると家賃が必要。

 最後に社員雇用の問題。本職は一応大学教官であるから日中は教育研究に従事しなければならない。従ってベンチャーの仕事(特に事務系、営業系)を自分がするとなると、それは夕方以降になる。


▲起業のノウハウを勉強中
 居酒屋を開業するならともかく、やはり日中に業務を遂行できるように社員の雇用が必要。ということは幾ら資本金猶予と言ってもベンチャーの運転資金だけでも結構な額のお金を用意しないといけないみたいだ。少し呑む量減らすか?否、それくらいではとても足りないだろう。競争的な制度で良いから、大学ベンチャーの運転資金の補助金というのは無いのだろうか。。。?


9月某日

 かなりショック。文科省の大学等発ベンチャー支援制度補助金が不採択!

 不採択の葉書には理由をご丁寧に記載してくれていた。『事業計画の妥当性に問題がある』という欄にチェックが入っている。私にとっては事業計画を書くというのは人生初の経験であった。科研費や財団補助金等の申請で研究計画の書き方は大分慣れておりスイスイ書けたのだが、学術という仕事に就いている限り事業計画を書く機会がまずない。

 しかも夢物語ではなく現実味のあるビジネス的な根拠に基づいた内容でなければならない。さらに、私の目指している産業分野(環境ホルモン分解菌による排水浄化機器の開発)は日本のみならず世界的にも製品化例がないことから参考にできる前例も見当たらず、かなり頭を悩まして補助金申請書を書いたのだが、ダメだったか。。。

 次の補助金制度の機会は約半年後にある経産省の地域コンソ。しかしこっちの方が産業に直結した省庁の管轄だから審査がずっと厳しいに違いない。これはもう一人じゃ絶対無理。ベンチャー計画に参加してくれるような、あるいは、事業計画について相談に乗ってくれる経営者(or企業経験者)はいないかな〜。。。


9月某日

 夜7時ごろ、学長から研究室に電話。ベンチャー計画がなかなかうまく行かない私を見兼ねて学長が室蘭市に働きかけてくれた。大学ベンチャー作ろうとしている若手研究者がいるんだけど悩んでるみたいだから相談に乗ってやってよ、という感じで。出来の悪い若手ですんまそん。。。

 翌日、室蘭市財政部の山田部長から電話があった。一度話を聞いてあげるから、ということで面会の日時・場所を決定。山田部長の他にも力になれそうな方々数名が参加してくれるとのこと。

感謝、感謝!



藤井 克彦氏の略歴

◇室蘭工業大学 応用化学科 助手
◇1971年生まれ 九州大学理学部 生物学科卒業
◇奈良先端科学技術大学院 バイオサイエンス研究科博士前期課程
◇東京水産大学大学院 水産学研究科博士後期課程終了
◇専門分野:微生物工学、環境バイオテクノロジー、有用微生物の探索
 電子メール:kfu@mmm.muroran-it.ac.jp
 ホームページ:http://www.mmm.muroran-it.ac.jp/~kfu/