室蘭工業大学 応用化学科助手の藤井克彦氏が、現在
進めているベンチャー設立までの軌跡をリポートしま
す。本人自らがつづる、臨場感あふれる体験談です。

【vol.4】

産学交流会でのプレゼンが大ウケ…

平成14年7月某日


 本日は北海道tloの主催で行われる産学交流会が本学で行われる。大学ベンチャー設立を計画している笠原先生と私が産業界の方々を前に研究内容と起業計画をプレゼンさせてもらうのである。
 本学地域共同研究センター(crd)の斉藤センター長、北海道tloの佐藤部長、そしてtlo取締役の藤田・北大副学長の挨拶の後に、笠原先生がプレゼンを開始した。相変わらず専門外でロケットエンジンの話ということ以外は理解が追いつかなかったが、彼のプレゼンの気迫がすごかった。そして、そのような分野外の内容について藤田副学長(専門は獣医学)が普通に質問しているところが更に驚いた。

 そんな質疑応答の最中に突然、司会役の飯島・crd助教授から話があるということで廊下に呼び出された。廊下では分解菌の特許出願で世話になっている北海道tloの方々も勢揃いしていた。皆笑顔ではない。何だ?俺何か悪いことした?北海道tloの担当者が口を開いた。

担当者『あの先生、確認なんですけど、今出願の準備している微生物の話、あれは発表しませんよね?』
藤井『・・・・・・・!!』
担当者『・・・・・・・??』
藤井『えっと、、、発表しちゃダメなんですかね。。。』

一同の顔には驚愕の色が、そして次の瞬間『やっぱり確認取っておいてよかった』という安堵の色が広がっていくのが分かった。

担当者『先生、その部分しゃべっちゃだめです!ちゃんと削除してください』
藤井『あ、、、しゃべっちゃだめですか、、、はい。でも持ち時間40分のうち20分はこれを喋ろうと思ってたんですけど、、どうしましょうか』

飯島『あ、先生大丈夫です。私がうまく時間稼ぎしますから』

 飯島先生は微笑みながら言って下さったが目は決して笑っていなかった。私はあと少しで特許を潰すというシャレにならんことをするところだったらしい。

 特許庁からお墨付きをもらった学会では発表後半年は特許の新規性が守られるという特例があるのだが、今回の産学交流会でしゃべるのはダメらしい。当然の話だ。そんなことすら気づかなかった私がおかしい。私のプレゼン開始20分後に会場の中で青ざめて次々と卒倒するtlo関係者と泡を吹いて崩れ落ちる飯島先生の顔が浮かんだ。

 確認取ってくれて本当にありがとう。ってその危険性を察知された自分の情けなさも感じて大変複雑な気持ちになった。平沼さん、本当に日本の理系研究者に大学ベンチャー作らせてよいのですか?ただでさえヤバイ経済、もっと悲惨になりますよ。私みたいなのばっかりですから。。。

 とうとう私のプレゼンが始まった。特許に触れる部分は喋っちゃいけない。つまり、あそこからあそこまでのスライドは飛ばして次の話に持っていかねばならない。頭の中で確認した。

 飯島先生が少し長めの休息時間と紹介を入れてくれたおかげで10分は稼げた。残り10分をどう乗り切るか。

 プロジェクターの横にはtlo担当者が鎮座した。スライドを切り替える役ではもちろんない。私が緊張のあまりに頭の中が真っ白になって該当箇所をしゃべりそうになった時にプロジェクターの電源を即座に落とすためである。関係者は皆、特許を守るのに必死だった。

 もちろん聴衆は今この場がこれほど緊迫した瞬間であるとはつゆ知らず、逆にそのような奇妙な状況が私の緊張をほぐしてくれた。プレゼンの中盤にかかると大分余裕がでてきて、冗談のひとつでも言って笑かしてやろうと思いだした。

 そこで該当箇所の1つ前のスライドを説明した後で、『実は先程北海道tloの担当者に廊下に呼び出されまして。。。』と廊下での経緯をしゃべり、『というわけで、これ以降はすみませんがまたの機会に』と頭を掻きながらお詫びした。

 狙いどおりこれで会場は大ウケし、私も調子に乗って『いやあ、私は母に常識知らずと説教されることが多くて。。。』等と頭に浮かんでくる冗談をアドリブでつなげて時間を稼いだ。最後には佐藤部長から『藤井先生のご研究については9月の技術移転フォーラムで更に詳しくお話できると思いますので、もう少しお待ちください』との駄目押しフォローを入れてもらい、これがまた聴衆にウケ、無事に発表を終了することができた。

 交流会発表の後、懇親会が催された。そこで他大学の先生方とお話することができた。その一人は前出の藤田・北大副学長であるが、もう一人、富田房夫・北大教授である。北海道tloの役員をされているとのことで、講演時は別件で欠席されていたのであるが、懇親会のために遠路はるばる本学まで足を伸ばしてくださったのである。同じ微生物学が研究フィールドであることもあり、もったいないほどの激励のお言葉を頂戴した。

藤井 克彦氏の略歴

◇室蘭工業大学 応用化学科 助手
◇1971年生まれ 九州大学理学部 生物学科卒業
◇奈良先端科学技術大学院 バイオサイエンス研究科博士前期課程
◇東京水産大学大学院 水産学研究科博士後期課程終了
◇専門分野:微生物工学、環境バイオテクノロジー、有用微生物の探索
 電子メール:kfu@mmm.muroran-it.ac.jp
 ホームページ:http://www.mmm.muroran-it.ac.jp/~kfu/